第3話青峰家を訪れる
放課後。
電車に揺られながら、車窓の外を眺める。遠いな、青峰莉奈の自宅は。
流れる景色に見覚えがない。それもそのはず、一度も訪れたことのない地域に向かっているのだから。
電車はスピードを落とし、駅にとまる。立ちあがり、開いたドアから降りて、改札に向かう。小さな洋菓子店で口に合いそうなものをショーケースに並んでいるものから選ぶ。
会計を済ませ、20分ほど歩き青峰家に到着する。
インターホンを押し、すぐに女性の声がして、扉が開いて女性が招いてくれた。
「突然、お邪魔してすみません。よかったらこれを」
紙袋を女性に渡す。
「いいの、ありがとう。あがっていって、水無瀬君」
用意されたスリッパを履いて、案内された部屋に入る。
すんなりと家に上がれた。嘘ついたのか月羽音先生は。
「そこに座っていいよ。莉奈のためにありがとう。何か飲みたいのある?」
「大丈夫です、そこまでしてもらわなくても」
「紅茶を淹れるから。4月末まで担任が来てたみたいだけど、来なくなったの。仕方ないよね」
「......」
「莉奈の写真みる?水無瀬君」
沸かしていた水が沸騰したらしく、マグカップに注ぎながら言う彼女。
「見せてもらっていいんですか?怒られませんか」
彼女は小さく笑い、テーブルにマグカップを目の前に置いてくれた。彼女は一枚の写真を渡してきた。
「見せたいから、言ったの。はい、これが莉奈だよ。可愛いでしょ」
「そうですね。部屋から出てこないんですよね?青峰さんは」
「全然、莉奈を見てないの。なんとかしたいけどなかなかね。勉強はやってると思うよ、多分」
「何でそう思うんですか?」
「担任が持ってきたプリントがなくなってたらしいから。いないときに莉奈が持っていったかもしれない。行かないといけないとは思ってると思う、莉奈は」
「あの、無理にとは言いませんが莉奈さんの部屋まで案内してくれませんか?」
「いいよ、水無瀬君が莉奈のヒーローになってあげて。私には無理だから」
そう言って、立ちあがり部屋に案内する彼女。
声をかけても物音一つしない。一時間粘るが青峰さんは出てくることはなかった。そううまくいくとは思わなかったが、これほどのものなのか。
俺なりの想いは全て部屋にとじこもる青峰さんに伝えた。
帰る間際に申し訳なさそうに謝られた。
「ごめんね、水無瀬君。どうか、莉奈を救いだして。水無瀬君しかいないの」
「また来ます。今日はありがとうございました」
俺は、青峰家を後にし、電車に揺られながら、今後、どうしていくかを考えていた。
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