第19話

ミシェルとミケーネはオクの村で、ピザ屋を開いていた。


ほどほどにお客も入っている。

しかし、ミシェルもミケーネも不満があった。

「まったく、王宮を出されて冗談じゃ有りませんわ」

「本当に。でも殺されなくて良かったじゃないか」

プリプリと怒っているミシェルにミケーネがウンザリした様子で答えた。


そこに、レイシアと翔が現れた。

「やあ、ミシェル、ミケーネ、元気そうだね」

レイシアは普通の顔で話しかけた。

「レイシア!!」

「お姉様!?」

ミシェルとミケーネは、粉だらけの服のまま、呆然としていた。


「何!? 笑いに来たの!?」

ミシェルは噛みつくような勢いで怒鳴った。

「ミシェル、もう止めよう」

ミケーネは諦めたように言った。


「ピザを2枚もらおうか」

レイシアは言った。翔は首を振った。

「また、毒を盛られるかもしれませんよ」

「うるさいわね、ちゃんと作るわよ、ミケーネが」


ミケーネは黙々とピザを作り続けている。

いつも王宮で兵士を相手に、剣技を磨いたいた姿から比べると、落ちぶれた物だとレイシアは思った。


「どうして、見に来たの・・・・・・?」

ミシェルがレイシアに聞いた。

「だから、元気な姿を見に来たと言ったろう」

レイシアは微笑んでいった。

「なんて残酷なの、レイシア」

ミシェルが言う。


「おい、出来たぞ」

ミケーネが焼きたてのマルゲリータをレイシアと翔に渡した。

「いただきます」

二人はそれを食べた。特に毒は入っておらず、味も普通だった。


「私たちは、ミスティ王国にいる。困ったら、戻ってきてもいい」

「戻ったら殺されるわ」

ミシェルは舌打ちした。


「さあ! もう満足でしょう? 帰ってちょうだい!!」

ミシェルは悔しさでかみしめた唇から血を流しそうだった。

「僕たちはこの町で、ピザ屋として生きていきます」

ミケーネが俯いたまま言った。


「ミケーネ・・・・・・」

「レイシアさん、もう行きましょう」

翔が見かねて、口を挟んだ。

「ああ、戻ろうか、翔」


「二度と来ないでちょうだい!!」

ミシェルはそう言うと、二人が出て行った後、店のドアを乱暴に閉めた。


「ミシェルもミケーネも元気そうだったな」

「レイシアさん、趣味悪いですよ」

レイシアの言葉に翔が反応した。

「何を言う! 先に陥れたのはミシェルだぞ!?」


「でも、気持ちいいものじゃないですよ」

翔はそう言って、ミスティ城に戻る道を歩き始めた。

「・・・・・・そうだな」

レイシアも頷いて、翔の後に続いた。


城に帰ると、王と王女が待っていた。

ミシェルとミケーネの現状を伝えると、王と王女はため息をついた。

「まあ、殺されなかっただけでも幸いでしょう」

王女はそう言うと、話を変えた。


「こんどはエルフの村に、セイレーンが現れたようです」

「ええ!?」

「また、僕たちが言った方が良いですよね」

翔が言うと、王が頷いた。

「出来れば行って欲しい」

王が答えた。


「今度はセイレーンか。エルフの村というと海の近くの森の中ですよね」

レイシアが行った。王女が頷く。

「セイレーンは眠りの歌を歌う。気をつけろ、レイシア、翔」

王は警告した。翔とレイシアは真剣な顔で頷く。

「はい」


「今日は、もう休みなさい」

王女が行った。翔とレイシアは首を振った。

「剣の鍛錬をしようと思います」

「そうですか」


レイシアの言葉に翔も頷いた。


二人は外に出ると、互いに剣を抜いた。

翔は、コカトリスの剣を鋼の剣に変化させた。


「行くぞ! 翔!!」

「はい!!」

レイシアの杖と翔の剣がぶつかった。

「ずいぶん強くなったな、翔」

「レイシアさんこそ」


しばらくぶつかり合ったが、軍配はレイシアに上がった。

「レイシアさんはやっぱり強いなあ」

「城で訓練していたからな」

翔とレイシアは部屋に戻るとそれぞれシャワーで汗を流した。


「明日は、ちょっとやっかいだな」

寝間着に着替えたレイシアが言った。

「そうなんですか?」

翔が聞いた。

「ああ、セイレーンの眠りの歌は強力だし、エルフは人間嫌いだ」

「へー」

翔はレイシアの言葉がピンと来なかった。


「今日は早めに寝よう」

「はい、レイシアさん」

翔は、落ちぶれたミシェルとミケーネの姿を思い出した。

恨みがないわけではなかったが、少しかわいそうに思った。


夜は静かに更けていった。

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