第39話 王の威厳

「陛下っ、大丈夫ですか!」


ミルグリアがダリア王を抱きかかえる。


「貴様、余がダリア百二十世と知っての狼藉か!」


ミルグリアの元に来たことで落ち着いてきたダリア百二十世。確か、先代はタラムス十世だったはずだ。


「そんなことより、魔王を倒してー!」


エメが言う。


「余にそんなことができるかっ!」


ダリア王は断言する。


「……なるほど、確かに陛下は勇者の血を引いておられる。」


ミルグリアが考え込んだ様子で唸る。


「……陛下、我が王国は存亡の機に立たされております。」


「はっ?何を言っておるのじゃ。」


「陛下のお力添えをお願い致します。」


ミルグリアは小瓶を取り出すと、中身をダリア王に振りかけた。


「何をかけるのじゃっ!やめい!」


「……残念ながら剣はありません。しかし、この三千年で著しい発展を遂げた魔道技術を用いれば、必ずや倒すことができるでしょう。」


「わしにはそんなことできん!」


「陛下、思い出してください。幼いころ、夜にトイレに行けずおねしょをした時のことを。あの頃の陛下はとても臆病で、夜になると部屋から一歩も出られませんでした。ですが、今では走り回ることができるようになったではありませんか。」


「それはおぬしの姿がとても怖かったからで、断じて夜が怖かったから出られなかったわけではないのじゃ!」


ミルグリアはショックを受けたように自らの角を触る。


「そうでしたか……。ですが、今は私のことは怖くないでしょう?」


「……。」


ダリア王は黙る。


「……。」


ミルグリアも黙る。


「そうですか……。では、魔王はどうですか?」


「恐ろしいに決まっとる!」


「あの~、早くしないと魔王が這い上がってくるんじゃ。」


シュガーが会話に参加した。


「?こいつは誰じゃ。」


「ダンジョンの主です。」


「だんじょん?」


「絵本に書いてあったでしょう?『帰らずのダンジョン』に出てくるあれのことです。」


帰らずのダンジョン。富を求めた冒険者がダンジョンに入り、そのまま出られなくなってしまうという内容の作品だ。子ども向けの絵本であるが、挿絵とストーリーが恐ろしいため、多くの子どもを泣かせてきた。


「えっ……ひ、ひいっ!」


ダリア王は思わず駆け出した。


「陛下、そちらは……。」


ダリア王はそのまま魔王が落ちた縦穴へと吸い込まれていく。


「た、助けるのじゃっ!」


「はい、陛下。ついでに魔王も封印してしまいましょう。」


ミルグリアも縦穴へ飛び込む。


「俺らも飛び込んだ方がいいのか?」


「猫さんがいるなら大丈夫だよー。」

「きっと倒してくれる!」

「ここで待ってよー。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る