第35話 斜面

「は~い、最初の~。」


ミルグリアが小瓶を投げる。


「ア、ア……。」


心なしか、縮んだような気がする。


「全然効果ないね~。これはダメかも~。」


そういう割には全く焦っていない。


「アアアッ!」


模造品が腕を振り上げる。衝撃波があたりを襲う。


「……あれ~?結構弱いのかな~?」


……あれで、王都の結界は消滅した。


「あれっ?魔法が使えるようになったー!」

「転移しようよー!」


ずっと魔法を使おうとしていたダンジョンコアたち。魔法が使えて喜んでいるようだ。


「残念ながら、僕はここから逃げるわけにはいかないんだよね~。」


ミルグリアが風を起こしながら言う。


「……どうやら本当に魔法が使えるようになったみたいだね。」


(俺にも魔法が使えたらなあ。)


「アアアアアアアアア!!!!」


模造品が咆哮をあげながら手を前に伸ばした。


「なんかやばそう!」

「とりあえず転移ー!」


ダンジョンコアたちがゴブリンと謎の人物、そしてシュガーを近場まで転移させる。


「……転移したか。って、さっきの場所から対して移動してないじゃん!」


シュガーが叫ぶ。


「猫さんを置いてけないよー!」


エメが叫ぶ。

結構な信頼関係を築いたようだ。


「猫さん、いったん逃げよう!」


「じゃあ、あそこまで転移させて~。」


ミルグリアと共に、シャンタルが転移する。


「ガアアアアアア!!!!!!」


模造品の手が闇に包まれる。


「グウウウウウアアアアア!!!!」


強い光が放たれた。


 シュゥゥゥー……


「うそ……。」


光が消え去った先には、巨大な空間が存在していた。


「……角度が下でよかったよ。」


ミルグリアが言う。もし、もう少し上に攻撃が向いていたら、王都は消滅していたに違いない。幸いにも、今回の攻撃でダメージを受けたのは地下通路とシュガーのダンジョンだけだった。


(俺のダンジョンが、また広くなった……。)


「でも、やばいね……。次の攻撃を撃たれる前に何とかしないと。」


ミルグリアは強い。だが、私の模造品を倒すほどの実力ではない。


「アアアアアアアアア!!!!!」


模造品がまた叫ぶ。


「アアアアアアアッ、アアアアアアア!!!!!!」


そして、一気に地下へとずり落ちていった。


「偉大な魔王が、いなくなられた!」


謎の人物が叫んだ。


「自分で作った場所に転がり落ちるなんて……。」


(意外と魔王って、ドジなんだな。)


これは理性が崩壊しているからであって、普段の調子ならこんな有様はありえなかっただろう。それにシュガーにだけは言われたくないものだ。


(もしかして、俺にも倒せたりして……。)


断じてあり得ない。


(俺の頭よ、何とかしていいアイデアを考え出してくれ!)


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