第33話 模造品
(なんてことだ……。周囲が歪んで見える。)
「魔王って、何ー?」
「みゃあ~。」
(剣と角、そして球形。そこに薬が掛けられた。なんかやばそうだな……。)
「魔王がご帰還なさる!」
「我が聖剣の一太刀、浴びせてくれよう!」
とりあえず、あっちの世界に戻れたら美味いものをたくさん食べたい。
三千年前はあまり食に興味がなかったが、こう、美味そうに食べるものが多いと、興味が湧いてくる。
(儀式は終わったのか?)
それにしても、いつになったら私は呼び戻されるのだ?少しもこの世界から動いた気がしないのだが。
「おお……。」
「これが……魔王。」
(あ、あ……。)
「…………闇を見た。悪しき闇だ。来光によって取り払われた我は、再び戻された。」
……おい、これはどういうことだ。
「書物に書いてあった通りの姿だ……。」
「何という邪悪な気配……。」
これは、こいつは、なんなんだ?
「角を失った。それはすべての終わり。しかし、それはすべての始まりであった。」
この独特な口調……。奇妙な語り口、どう考えても、
「民よ、愚者よ、すべてをささげよ。我は魔王。」
三千年前の私だ……。
だが、おかしい。本物の私はここにいるのだぞ?
「……本物の魔王とまるで遜色ないではないか。」
もしかして私の模造品を作ったのか?
「実に偉大だ。我らが魔王にふさわしい……。」
「おい、まずは逃げるぞ。こいつがこの街を破壊するまでが我らが取引の内容だったはずだ。」
「そうだったな。だが……貴様が我が偉大な魔王に剣を向けることは必至……。」
「……なるほど。では、私だけで逃げさせてもらうとしよう。」
「おい、何を投げようとしている。」
「お前ならわかっているだろう?」
バルドオが私の模造品に向かって薬品を投げる。
「瓶を投げるか、人の子よ。それで何かが起こると思うとは、笑止なり。」
愚かな模造品め……。
薬品技術はこの三千年で異次元の発展を遂げたのだ。
王都、憎らしくも、いい街であった。
いつかは訪れたいと思っていたが、それも無理なようだな。
「……おい、な。」
「魔王よ、ああ……。魔王よ!」
模造品が動作を止める。
「この魔王は我らポポ協会、名を改め勇者団が必ずや討伐する。」
バルドオが転移して逃げる。
三千年前の私とは言え、勇者が作り出した結界など、あっという間に破壊するだろう。
三千年も持った勇者の結界をほめるべきか、それを何千回も破った私をほめるべきなのか。
あの勇者め……。正攻法で勝てないからと、私をこんなところへ送り込みおって……。
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