第29話 南南東

「南南東に向かってダンジョンを広げろ。」


(そんな無茶な。)


「お兄さんはダンジョンマスターだけど、何にもできないの。だから、そんなの無理だよー。」


猫をなでながらエメが言う。


(のんきそうだな~。)


「確かに、貴様からは全く力を感じない。」


(納得してくれたか。)


「では、手作業で掘り進めろ。」


「えっ?」


他のダンジョンコアたち、そしてゴブリンたちもダンジョンに呼び戻された。


「猫さん、負けちゃったのー?」

「うん……。」


シュガーとゴブリンは、南南東に向かってせっせとダンジョンを掘り進めている。


(だんだん慣れてきたぞ。)


「ごぎゃっ、ごぎゃっ。」


ゴブリンたちは、連携しながら。シュガーは自分のペースでゆっくりと、ダンジョンを掘り進めていく。


「全部持ってくー!」


ダンジョンコアたちが溜まった土を地上に送り出している。


「……全然進まないな。」


謎の人物がイライラしたように言う。


「このダンジョンにはこれだけしかいないのか?」


「はーい、そうですね。」


謎の人物からの質問に、シュガーが答える。


「……ええい!どけ、貴様ら。」


謎の人物がシュガーとゴブリンたちをどける。


「あれっ、もう終わったの?」


「まだなんだが、どけと言われた。」


謎の人物がダンジョンに手をくっつける。


「なんか光ってるー!」


謎の人物が赤く輝き始める。

次の瞬間。


 ドゴッ


「何が、起きたんだ?」


謎の人物が立っている向こうに、奥行きのある洞穴ができていた。


「……すごい。」


(これができたんなら、最初から自分で掘ればよかったじゃん。)


「くっ、これはもしもの時のために、とっておいたものだというのに。」


謎の人物が空になった瓶を投げ捨てる。


「おい、ついてこい。」

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