第28話 割れた瓶

(何をやってるんだ?)


謎の人物は、草むらを足でたたいている。


「ここか。」


謎の人物が立ち止まった。


「おい、ここを掘れ。」


「え、俺ですか?」


「そうだ、貴様のことだ。早くしろ。」


シュガーは謎の人物の足元を掘り始める。


(俺は何をさせられてるんだ……。)


「ん?」


(何か硬い感触が……。)


「掘り終わったか。よし、どけ。」


シュガーは慌てて立ち去る。


「これとこれだな……。おい、埋めろ。」


「はっ、はい。」


シュガーは土をかぶせなおした。


「この薬品、なんだと思う?」


謎の人物は両手にそれぞれ瓶を持っている。


「回復薬、ですかね?」


「変化薬だ。これを持て。」


シュガーはそのうちの片方を渡された。


(どっちも同じ見た目をしてるな。)


「いいか、これからダンジョンに戻るが、そしたら変化薬をあの着ぐるみ野郎に投げろ。」


「い、嫌だと言ったら?」


謎の人物は剣を抜いた。


「やります!」


「いい返事だ。」


「ぐぅっ!」


シュガーは再び首根っこをつかまれる。


「戻ったぞ。」


「おかえり~。そしてさよなら~。」


謎の人物はダンジョンに転移した。転移と同時に風による攻撃を受ける。


「この程度の風、どうとでもなるわ!」


剣で風を薙ぎ払う。


(離してくれっ!頼む!)


シュガーは掴まれたままだ。


「シュガー君~、おかえり~。」


風が吹き、シュガーの身が宙に浮かぶ。


(助けられたのか?)


シュガーは、謎の人物とミルグリアのちょうど中間地点まで飛ばされた。


(ここからだったらどっちにでも瓶を投げられる。あの人物は着ぐるみ男に投げるように言っていた。だが、)


シュガーが謎の人物に向かって瓶を投げる。


(助けられたからには恩を返さないとな。)


「やはりこっちに投げてきたか!よしっ、いいぞ!」


謎の人物は瓶の中身をぶちまけられたが、変化する様子はない。


「着ぐるみ野郎っ、覚悟しろ!」


謎の人物が地面をけると、ダンジョン全体が揺れた。


そして、その勢いのままミルグリアの方へ飛ぶ。


「く、くるなっ!」


中間地点にいたシュガーは吹き飛ばされた。


「ひいっ!」


(これで何回目なんだ……。)


「あれ~?」


ミルグリアは呆然と立ち止まっている。


「猫さん!」


エメが急いでミルグリアを転移させた。


「遅い!」


謎の人物が瓶を投げつける。これは、当たったのか?


「みゃあ~。」


転移したエメの腕の中に一匹の猫がいた。


「どうやら、私の勝ちのようだな。」


謎の人物が勝ち誇る。地面には割れた瓶が転がっていた。


「猫さんが、ほんとの猫さんになっちゃった……。」


「みゃあ~。」


エメの腕の中で、猫が鳴く。どうやら、この猫の正体はミルグリアのようだ。


「私の予想通り、あの着ぐるみ野郎ではなく私に当ててきたな。」


謎の人物が男を見下ろして言う。


「あはは……。」


「まぁ、だからこそ貴様には変化薬ではなく速々薬を渡していたのだが。」


速々薬、足が速くなる薬だ。


「さて、これで貴様らが私の指揮下に入ったわけだ。」


「猫さん……。」


「みゃあ~。みゃあ~。」


(どうにか逃げ出せないだろうか。)


指揮下に入ったようには見えない。


「非常に簡単な任務を与えよう。」


「ここから南南東の方角へ、直線のダンジョンを作れ。」


緑壁の森の現在地から南南東といえば、王都のある方角だ。


「無事、作り終えたら貴様の姿を元に戻してやろう。」


ミルグリアを見ながら謎の人物が言う。


「みゃあ~。」


「……これだと何を言っているのかわからんな。」


謎の人物は手を顎にくっつけ、考え込んでいる。


「あのさ、この猫さんはダンジョンマスターじゃないよ。」


エメが言う。


(まずい!)


シュガーが慌てだす。


「本物のダンジョンマスターは……。」


エメがシュガーの視線に気づいた。


(だめ、言っちゃダメ!)


シュガーは身振り手振りで正体を言わないように伝える。


「誰だろうねー。」


(ほっ。)


「何やってんだ貴様。」


「あっ。」


謎の人物がシュガーを見る。


「……もしや貴様がダンジョンマスターなのか?」


謎の人物は剣を地面に打ち付ける


 カーンッ


「ひぃっ!」


「そんなわけないか。」


謎の人物がエメの方を見る。


「その人はダンジョンマスターじゃないよー!えっと、ただのモンスター!」


再びシュガーの方を見る。


「え、えーとですね。俺はモンスターなんですね。がおー。」


「貴様だったのか。」

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