第26話 交渉決裂

(えっ、誰?)


本当に誰だ。


「何が目的~?」


ミルグリアが疑問を口にする。


「貴様がダンジョンの主か?単刀直入に言おう。このダンジョンを宿営地として借り上げる。」


謎の人物はミルグリアがダンジョンマスターであると思っているようだ。


「宿営地、ここを?王都を攻撃するの~?無謀じゃないかな~?」


当然の疑問だ。


「詳しいことは言えない。私には目的があり大義がある。魔族であるならば、それに従うのは義務だ。」


謎の人物は実に傲慢だ。


「へぇ~?」


ミルグリアは王国に仕えている魔族だ。思うところがあるのだろう。


「もし、従えないというのならば、無理やりにでも借り上げさせてもらう。」


謎の人物はどこからか剣を取り出し、臨戦態勢に入った。シュガーは突然起こった出来事を飲み込めずにいる。


(蝙蝠みたいな羽を付けていて、マントをたなびかせている。目は光を寄せ付けないほど黒く見えるが、ときおり光の反射で紅く煌めく。絶対、魔法を使うと思っていた。寄りにもよって剣か……。お手並み拝見ですかな。)


……シュガーは実にのんきな様子だ。今起こった出来事を他人事としてみている。


(あの猫の着ぐるみと謎の剣士、うまくいけば両方共倒れでどっちも追い出せるんじゃないか?いや、そんなことしたら俺とダンジョンコアたちだけでゴブリンたちの相手をすることになってしまう。でも、確かゴブリンの一人と話が通じたような……。よしっ、負けそうな方に加勢しよう!そして、頃合いを見て両方追い出す!そのためにもゴブリンを味方につけよう……。ダンジョンコアたちが起きてたらなあ……。)


ダンジョンコアたちは寝ている。もし起きていたら、ミルグリアの味方をしたに違いない。


「僕、ダンジョンマスターじゃないんだけど~。」


周囲に風を起こしながら、ミルグリアは言う。


「何を言う、この中で最も強いのは貴様ではないか。」


謎の人物の周囲が熱で揺らめく。確かに間違ってはいない。


「ねぇ、こんなところじゃなくて違う場所で戦わない~?」


「そもそも戦う必要などないのだ。頭を垂れ、従え。悪いようにはしない。」


謎の人物は交渉を続けたいようだ。


「無理だね~。」


(俺がダンジョンマスターなのに、勝手に話が進んでいる……。)


二人の会話を内心不満に思いながら、シュガーはゴブリンの方へと向かう。


「ならば仕方がない。手加減はしてやろう。」

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