第23話 風

男はゴブリンたちに囲まれていた。


「ごぎゃっ!」


「ひぃっ!」


(助けてくれー!)


「お~い、何をやってるんだ~?」


「聞いてください!このゴブリンたちが俺をダンジョンに放り込んだんです!」


着ぐるみ男に言いつける。虎の威を借る狐といった感じで、先ほどまでの怯えは微塵も感じられない。


「なるほどね~。」


着ぐるみ男が指を振った。魔法を使ったようだ。


 ビューッ


風が発生する。狭いダンジョンの中だ。いっきに男とゴブリンたちが奥の部屋まで飛ばされる。


「ごぎゃあっ!」「なんで俺まで!」


「ふう~、やれやれ~。」


着ぐるみ男は掛け脚で後を追いかけた。


「痛い……。」「ごぎゅぅ……。」


「なぜ俺まで……。」


「ゴブリンたちの言い分も聞かないと~。」


「魔法を使う前に聞いてほしかったです……。」


「ごぎゃっ!ごぎゃっ!」


「なるほど~。」


再び風が発生する。男とゴブリンたちは壁にたたきつけられる。


「いてぇ!」「ごぎゃっ!」


「それにしても君たちに掛けていた魔法、効き目あんまりないな~。仲良くできるようにしていたはずなんだけど……。やっぱり、魔法は得意じゃないな~。」


(これで魔法が得意じゃないって……。)


「とりあえず、言い分は聞いたよ~。君をのせて椅子を運ぶことになったのが頭にきたんだって~。」


「最後にもう一回かな~。」


「そ、そんな……。」「ごぎゅっ。」


男とゴブリンの足元から風が吹き付け始めた。


「う、うわっ。おろしてくださいー!」「ごぎゃっ!ごぎゃっ!」


空中でくるくると回る男とゴブリン。


「わあっ!楽しそー!」

「私もやるー!」

「一番乗りー!」


ダンジョンコアたちも風に飛び込む。


「じゃあ、僕も~。」


着ぐるみ男も風に飛び込んだ。魔法を使いながら魔法に乗り、遊ぶ。これで魔法が得意でないとは、驚きだ。


「もうそろそろ疲れたかな~。」


「えー!早いー!」

「回復魔法使うからもっとー!」


その後、数時間ほど。ダンジョンコアたちが満足するまで風は吹き続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る