第22話 雑草

「そういえば、私たち結局転移してないよ?」

「さっきの計画はなんだったんだー!」


ダンジョンコアたちが叫ぶ。


「思ったより警備が手薄だったからね~。そのまま持って帰ってきたんだよ~。」


着ぐるみ男は飄々とした様子で言う。


「それに計画を作ったって、その通りにいくことなんてまずありえないからね~。計画を立て続ける力こそが重要なのよ~。まあ、最終的な目的は達成できたから~。ほら、あそこに椅子があるでしょ~?」


ゴブリンたちが椅子を運んで行ったであろう方向を見る。そこは、最初からあった出入口だ。椅子はない。


「あれ~?」


着ぐるみ男が首をかしげる。


「椅子どこ行ったー!」

「なぜ!」


ダンジョンコアたちも困惑を隠せない。


「ごぎゃっ!」


ゴブリンの叫び声を聞き、着ぐるみ男がその方向に視線を向ける。

そこにあったのは、薬品によって作られた第二の出入り口と、ゴブリンたちの姿だけだった。


「へえ、放り込んだんだ~。」


様子を見て、すべてを察したようだ。

着ぐるみ男は軽く息を吐く。すると、つむじ風が発生した。

なかなかに勢いが強い。あたりの草を引っこ抜きながら、ゴブリンたちの方へと向かう。


「ごがぎゃっ!」

「ごぎゅあっ!」


勢力を増したつむじ風から逃げようとしたゴブリンたち。

哀れにも次々とダンジョンへと吸い込まれていく。


「うわっ!」


どうにか落ちずにいた男も、つむじ風に飲み込まれダンジョンへと吸い込まれていった。


「よし~、僕たちもダンジョンへ向かおうか~。椅子もそこにあるはずだから~。」


着ぐるみ男がダンジョンコアたちに向かって言う。


「雑草が、顔についたー!」

「緑の匂いだー!」

「もぐもぐ……。まずい!」


ダンジョンコアたちは思い思いの返事をする。


「その草、回復草によく似てるけどただの雑草かな~。食べても大丈夫だとは思うけど~。」


エメが食べていた草について着ぐるみ男は語る。


「ただの雑草ってことは、まだ名前がないってこと~?じゃあ、名前を付けるー!」


エメは自分が食べていた雑草に興味がわいたようだ。


「う~ん、雑草っていうのは表現がよくなかったね~。名前自体は普通にあるんだよ~。人間社会では名前がついている植物でも、時と場合によっては雑草って呼び名で表すことがあるんだ~。」


着ぐるみ男は、小さい子にものを教えるかのようにゆっくり丁寧に話した。


「ほんとの名前はー?」


アレットからの質問だ。


「回復草モドキだよ~。」


着ぐるみ男は答える。


「モドキってー?」


シャンタルからの質問だ。


「モドキっていうのは、似てるけど違うって意味だね~。」


「えー、この植物は回復草に似てるからこの名前なの?もっといい名前を考えてあげようよー!」


「……う~ん。まぁ、回復草モドキっていう名前はこの辺りの人間社会で使われてるってだけだからね~。好きに名前を付けてもいいと思うよ~?」


「じゃあ、エメの草ってのはどう?」


エメからの提案だ。


「うん、いいんじゃないかな~。」


着ぐるみ男が賛意を示す。


「うー。」

「いいなー。」


アレットとシャンタルは羨ましそうだ。


「別に、二人とも自分の中で名前を決めていいんだよ~。」


「アレットの草ー!」

「シャンタルの草ー!」


それぞれ自分の中でオリジナルの名前を付ける。


「それはいやー!」


エメがいう。


「私が最初に見つけたのー!」


自らの主張の根拠も提示する。


「じゃあ、この草が今日からアレットの草ー!」


アレットは食べ残しの回復草を指さす。


「私も……。えーと、この辺全部シャンタルの草ー!」


シャンタルは数十種類の植物に対して同じ名称を付けた。


「いいと思うよ~。」


着ぐるみ男はのんきな様子で返事をする。


「うわっ!こっちに来るな!」


のどかな空気に男の叫び声が響き渡った。


「忘れてた~。」

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