第21話 いす

「ごぎゃっ!」


ゴブリンによって魔法が放たれる。


「同じ手は食らわないよーだ。」


シャンタルが横によける。しかし、よけた先にはエメがいた。


「痛いっ!気を付けてよ!」

「ごめん!」


「何やってるのさっ!もっかい打つ!」


アレットがゴブリンを睨みつけると、桃色の矢が放たれた。


「ぐごっ!」


「よけられちゃった……。」


完全な膠着状態。そこに、


「戻ってきたよ~。」


着ぐるみ男がやってきた。


「何やってるのさ~?」


「眠らせようとしただけ。」

「うん。」


「ごぎゃっ!ごぎゃっ!」


ゴブリンが自身の身に起こったことを訴える。


「へえ~、あの状態で意思疎通できたんだ。」


着ぐるみ男は気絶した男を眺めながらつぶやく。


「とりあえず椅子を持ってきたよ~。」


「ごぎゅっ!」


着ぐるみ男とともに椅子の奪還に向かっていたゴブリンが、持っていた椅子を地面に置いた。


「じゃあ、座らせるね~。」


男が椅子の上に置かれる。


「……俺はサトウだ。ダンジョンマスターの。」


目覚めたようだ。


「部屋まで運んでくれ。」


背もたれに身をゆだね、腰を曲げ、足を乱雑に地面に置いた男が命令をする。


「……。」


誰も運ぼうとしない。


「……よ~し、きみたち、運んであげて~。」


着ぐるみ男がゴブリンに命令する。


「ごぎゃっ!」

「ごぎゅっ!」


ゴブリンたちが椅子の脚をそれぞれつかむ。


「ごがぁっ!」


ゴブリンの一人が合図をすると、椅子が持ち上げられた。


「ごぎゅっ、ごぎゅっ。」


合図が出されるたびに少しづつ、ダンジョンの出入り口へ近づく。


「ごぎゃぁっ、ごぎょっ。」


そして、ダンジョンのすぐ手前まできた。


「ごぎゅ、ごぎゃっ!」


男が椅子ごとダンジョンに放り込まれる。


「うわあっ!」


だが、すべてのゴブリンが男を見放したわけではなかった。


「ごぎゃっ!」


男とともに叫んだゴブリン、男の手をつかむ。


「ご、ごぶりん……。」


「ご、ごす、いす!」


(なぜこのゴブリンは俺のことを助けてくれたんだ?何か思うところがあったのかもしれない。ご、ご、いす?何かの呪文か?そうでなければ……。)


「そうか……。お前の名前はゴ・ゴ・イスなんだな……。」


イスと叫んでいた時は通じ合っていたゴブリンと男の気持ち。

だが、それも最早過去のことだ。


「いす、ごぎゃっ!」


「椅子?なるほど……。」

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