10. 幼馴染だからって手は抜かない
じゃんけんの必勝法がもしこの世にあるとしよう。
世界でこの必勝法を知っているのは自分一人で、もう自分にはじゃんけんで負ける相手なんかいない状態。
考えてみれば、それはとても退屈じゃないか?
負けがあるから勝ちが嬉しい。
逆に言えば、勝ちが確定したじゃんけんなんてただの作業でしかない。
つまり、負けこそが本当は1番大事なんだ!
「──日比谷、私とじゃんけん」
「別にいいけど、どうして僕?」
「ちょ、唯奈?俺の話聞いてる?」
時は昼休み。
いつもは学食の日比谷が珍しく弁当を持ってきたため3人で昼ごはんを食べることになったその時に、事件は起こってしまった。
「じゃんけん」
「「ぽん」」
……は?
「あ、私負けちゃったなー」
唯奈が、負けた、だと……?
バカな!ありえない!
だって、唯奈はこの世界で唯一じゃんけんの必勝法を知っている人間だったんじゃ!?
──ま、まさか!?
「日比谷!お前なんだな!?
お前がじゃんけんの必勝法を知ってるんだな!?」
なるほど、それなら合点がいく!
唯奈の必勝法は未完成。日比谷の方法こそが完成系だったんだ!
「し、知らないよぉ……」
俺は日比谷をこれでもかと揺さぶって必勝法を聞こうとするが──背後から悪寒。
振り向けばニッッッコリとわる〜い笑顔の唯奈。
「私負けちゃって悔しいなー。
でも、負けがあっての勝ちならもし次勝てたらすっごく嬉しいだろうなー?」
「ゆ、唯奈……?」
「ナル、私とじゃんけん、しよ?」
策士策に溺れる。
ふっ……まさに今の俺を指す言葉じゃあないか。
「分かった。やろう。」
よくよく考えれば必勝法とはすなわち必敗の法でもあるわけで……
「「じゃんけん」」
唯奈が日比谷にわざと負けたとしたら、最初から唯奈はこの展開まで読んでいたんじゃないか?
「ポン!(チョキ)」「ポン(グー)」
やっぱり唯奈が最強じゃないか……
「ちなみに、日比谷には普通に負けただけだから」
この言葉を唯奈から聞いた後の1週間、俺は毎日日比谷についてまわってじゃんけんの必勝法を教えてもらおうとしたが、成果は何も得られませんでしたとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます