6. じゃんけんのはじまり

あれは、ほんの数ヶ月前。

いつもと変わらず、ナルと一緒に家に帰っていた日のこと。


「唯奈、ちょっと話があるんだけど……」


珍しく真面目に切り出したナルに、私はこれがちゃんと聞かなきゃいけない話だってことを察した。


「どうしたの?」


だから、私も真面目にナルに向き合う。


こういうナルを見るのは、幼馴染の私でも2回目。

みたいな話じゃないことを祈りながら私は答えて、ナルの目を真っ直ぐに見る。


「俺、唯奈の事が好きだ!」


「……え?」


今、好きって言った?ナルが?私に?

あっははは……ありえないありえない……


きっと聞き間違い──


「唯奈の事がす──」


「ストップ!もういい!」


何でもう1回同じこと言おうとするの!?

分かってるから!恥ずかしいこと何回もいうな!


「んー!んんんんー!んーーー!」


私はナルの口を手で塞ぎながら考える。


正直、びっくりした。

私とナルは幼馴染で、今までもこれからもずっとそうだと思っていたから。

私たちの仲が進展することなんて、一生ないと思っていたから。


でもそうじゃなかった。

そうじゃないなら、私は──


「じゃんけん、しよ?

勝ったら付き合ってあげる」







キーンコーンカーンコーン……


「ふにゃっ……夢、かぁ……」


体を起き上がらせて周りを見てみると、みんな楽しそうに話していたり机をくっつけてお弁当を広げたりしている。


どうやら、今は昼休みみたいだ。


「やばっ……」


お昼休みはいつも、ナルの教室で食べている。

きっとナルは、私が来るまでお弁当に手をつけず待っているはずだ。


私はお弁当を持って、教室を飛び出した。

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