5. じゃんけんで負けた後はいつだって地獄

じゃんけんで負けたすぐ後。

別のスイーツ専門店に連れてこられた俺は『新手の地獄』を体験していた。


「はい、あーん。

こっちは見ちゃいけないから」


「分かってるって……」


好きな人に「あ〜ん」で食べさせて貰える状況。

しかし、好きな人に「私を見るの禁止」と言われている状況。


天国と地獄のマリアージュ。あめむちの究極形。

ドMなら大喜びの展開だ。


「いただきます……」


1口食べると、ショートケーキが口の中で広がって……いや、食リポとかわかんないや。

でもとにかく美味しい。


というか……


『なーにーしーてーるーの!』


唯奈を視界に入れないためにレジの方をみていたら、ウェイトレスのお姉さんが口パクで俺にそう言っているのが目に入る。


いや、こっちが「なにしてるの!」なんだけど?


『かーのーじょーをーほーうーちーはーだーめ!』


さらに口パクでそう続けるお姉さん。

ウェイトレスさんは俺が唯奈を放置してよそ見をしているという図に見えたらしい。


へ、へぇ〜?俺と唯奈、付き合ってるように見えるのか〜?ふーーーーーーん?


「……ダメ」


そんな感じで内心ちょっと嬉しくなっていたところで、何を勘違いしたのか唯奈は1人そう呟くと……


「むぐっ!?」


「他の女の人見てニヤニヤするの、ダメ。

一緒に来た私に失礼」


無理やり残りのケーキ全てを俺の口の中に押し込む唯奈。


「むぐむぐぐぐぐ!むぐぐ!(何するんだよ!唯奈!)」


「これは、バツ」


結局、唯奈が怒った理由も分からないまま俺は新たなる地獄『ケーキ地獄』を味わうことになるのだった。

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