4. じゃんけんでの負けは、『全て』を失う
「明日、私とデート」
それは唯奈と一緒に家に帰っていた時のこと。
「……ん?今唯奈、なんて言った?」
「明日、私とデート」
唯奈はいつもと変わらない無表情なまま、突然そんなことを言ってきた。
「え!?なんで!?それって命令!?」
唯奈が引くくらいに前のめりな俺。
「……ん。強制だから」
この瞬間、俺はついに勝利した。
じゃんけんではなく人生に。
■
「まぁ、うん……知ってた」
デートの約束の翌日。
休日のこの日に、俺は唯奈に連れられて最近できたばかりのショッピングモールにやってきていた。
──しかし、これは断じてデートなどではない。
「……おいしい」
幸せそうにクレープを頬張る唯奈。
ここだけ見れば、可愛い彼女とのデートの一幕に見えなくもない。
だが……
「ゆ、唯奈〜?これ一回置いても──」
「ダメ。荷物持ちらしく荷物持ってて」
「はい、了解です……」
この通り、俺は彼氏などではなく荷物持ち。
オマケにその荷物は移動するにしても休憩するにしても、常に手に持ったままでいるようにという縛りプレーつきだ。
ちなみに持っている荷物は、名店の
俺は両手がふさがっていてやることもないため、唯奈がクレープを食べているところを大人しく見ていることにする。
こうしていても意外と飽きないもので、唯奈とクレープのツーショットをこの目に焼きつけていると──
「じっと見られると、食べづらい……」
少し恥ずかしそうに顔を逸らす唯奈。
普段は表情をあまり表に出さないだけに、なかなかレアな唯奈が見えた。
──よし、今なら!
「じゃんけんポン!」
完全な不意打ち。
唯奈も動揺していたはずで手を考える暇もない。
そんな中での、俺たち2人のじゃんけんは──
「ま、負けたぁ……」
「私の勝ち」
今日も見事に、俺の敗北で終わってしまう。
そして──
「命令。今日一日、私を見るの禁止」
「……え?」
この瞬間、俺はじゃんけんだけでなく人生にも敗北した。
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