4. じゃんけんでの負けは、『全て』を失う

「明日、私とデート」


それは唯奈と一緒に家に帰っていた時のこと。


「……ん?今唯奈、なんて言った?」


「明日、私とデート」


唯奈はいつもと変わらない無表情なまま、突然そんなことを言ってきた。


「え!?なんで!?それって命令!?」


唯奈が引くくらいに前のめりな俺。


「……ん。強制だから」


この瞬間、俺はついに勝利した。

じゃんけんではなく人生に。







「まぁ、うん……知ってた」


デートの約束の翌日。

休日のこの日に、俺は唯奈に連れられて最近できたばかりのショッピングモールにやってきていた。



──しかし、これは断じてデートなどではない。


「……おいしい」


幸せそうにクレープを頬張る唯奈。

ここだけ見れば、可愛い彼女とのデートの一幕に見えなくもない。


だが……


「ゆ、唯奈〜?これ一回置いても──」


「ダメ。らしく荷物持ってて」


「はい、了解です……」


この通り、俺は彼氏などではなく荷物持ち。

オマケにその荷物は移動するにしても休憩するにしても、常に手に持ったままでいるようにという縛りプレーつきだ。


ちなみに持っている荷物は、名店の饅頭まんじゅうやら日本だとここでしか買えないらしいケーキやらの袋が大量に握られている。


俺は両手がふさがっていてやることもないため、唯奈がクレープを食べているところを大人しく見ていることにする。


こうしていても意外と飽きないもので、唯奈とクレープのツーショットをこの目に焼きつけていると──


「じっと見られると、食べづらい……」


少し恥ずかしそうに顔を逸らす唯奈。

普段は表情をあまり表に出さないだけに、なかなかレアな唯奈が見えた。


──よし、今なら!





「じゃんけんポン!」


完全な不意打ち。

唯奈も動揺していたはずで手を考える暇もない。


そんな中での、俺たち2人のじゃんけんは──


「ま、負けたぁ……」


「私の勝ち」


今日も見事に、俺の敗北で終わってしまう。


そして──


「命令。今日一日、私を見るの禁止」


「……え?」


この瞬間、俺はじゃんけんだけでなく人生にも敗北した。

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