2. じゃんけんは運ゲーである。つまり、負ける日は単純に運が悪い日なのだ

「ただいま……」


時刻は午後10時。

唯奈の家からやっとの思いで帰ってきた俺は、玄関で靴を脱いだ後その場でぐったりと横になる。


夕方5時に始めた『唯奈の部屋お掃除大作戦』は、1時間程で終わると思われていた。


では何故、こんな遅い時間に帰ってきたのか。




──その原因の全ては、唯奈にある。







歯車が狂い始めたのは、掃除開始から10分くらいたった時のことだった。


「あ、私今日の当番だった」


『当番』とは、唯奈の家で決まっている夕飯を作る当番のことなのだが、よりにもよって今日にそれが重なってしまったのだ。


キッチンに向かう唯奈。

しかし、すぐに戻ってくると──


「食材がない」


まぁ、当番を忘れているのだから当然買い出しも忘れているわけで、ここで唯奈の離脱が余儀なくされると思われたのだが……


「買い出し、ナルもついてくる」


「は?でも、部屋の片付け──」


「ついてくる」


「……わかった」


と、言う感じで掃除そのものが中断。

買い出しのために近くのスーパーに向かうことになったのだがそこでも問題が発生する。


「お夕飯……なんにしよう」


ここで唯奈の優柔不断が発動。


こうなった唯奈が長いのは長年の経験から知っているので、俺が適当に夕飯をオムライスに決定。

食材を選んで手早く会計を済ませる。


しかし、これが運の尽きだと言わんばかりに家に戻ると唯奈が──


「ナル。私、オムライスの作り方しらない」


「は?」


などと言い出す始末。

結果、俺がオムライスを作ることになるわけだがここで唯奈が部屋の片付けを進めてくれると思ったら大間違い。


「もともとナルが片付けるって話だった。

なのにナル抜きで私が片付けるのはおかしい」


ここでまさかのド正論。

言い返すこともできず、掃除はまったく進まない。


そして唯奈を含めた花包はなつつみ家全員分のオムライスが完成したところで──


「ただいま〜」


続々と花包家一同が帰宅。

こうなってくると面倒なのは火を見るより明らか。


「おーおー!成羽くんじゃないか!

3日ぶりだな!」


「成羽くんがオムライス作ってくれたのね〜?

とっても美味しいわ〜」


いつも通り元気な唯奈のお父さん、慶真けいまさんといつも通りマイペースなお母さんの舞花まいかさん。


オムライスができた後は部屋の片付けを再開しようと思っていたのに、2人に誘導されて食卓へ。


ただ、俺の分のオムライスは当然作ってないためぼーっとテレビを眺めていると……


「あら〜?成羽くんは食べないの?」


「俺は大丈夫です。

今日は唯奈の部屋の片付けを手伝いに来ただけなので、それが済んだら帰ります」


遠回しに「片付けに行かせてくれ」と伝える。

しかし、それは伝わらなかったのか舞花さんは「でも、」と言ってにっこり笑うと……


「腹が減っては戦ができぬっていうでしょ?

だから……はい、あ〜ん」


舞花さんはスプーンに1口分のオムライスを乗せると、それを食べるように促してくる。


「どうしてそうなるんだ」とは思ったが、食べるまで引かないぞと目で訴えていたので俺はパクリと1口でいただく。


しかし、それが失敗だったことに気づいたのはもう手遅れの段階。


「ん」


唯奈もオムライスをのせたスプーンを俺の口元に持ってくる。


「ちょ、唯奈!?舞花さん達見てるって!」


特に慶真さんがすごい。

うらやま恨めしそうに僕を見ている。


「関係ない。早く食べる」


と、まぁそんな感じでぐだぐだと時間をロスしていく。


その後も様々な要因で片付けができないまま……







以上が『唯奈の部屋お掃除大作戦』の結果。


これを唯奈のせいと言わずして誰のせいと言うのか。

「不幸の連続」というなら、不幸を引き起こす唯奈が悪い。


悪いったら悪いのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る