♯2
パンケーキを食べ終わるとテオは早速例の屋敷へと足を運ぶことにした。さっきの男に前金代わりにと昼食代を支払ってもらったので誠意を見せるべきだと思ったからだ。
「確かにこれは入れないな」
門には鍵がかかっているだけでなくツタが絡まっており、苦労してナイフでツタを取り除いてどうにか敷地へと入ることができた。
さすがは長い間放置されていただけあり庭は荒れ放題だ。道となる部分は舗装されていたので屋敷まで苦も無く近づけた。だがテオは屋敷に入る前にその周りを見ておくことにした。屋敷の周りも舗装されているので歩きやすい。
「思ったより広いな」
歩きながらテオはそんな言葉をつぶやく。噂によれば資産家が暮らしていたらしいのでその資産家はなかなかの金持ちだったようだ。ところどころに置かれた何かしらの動物の像を見てもそれがよくわかる。
テオは屋敷の裏まで来たところでそこで大きな花壇を見つけた。たくさんの色とりどりの花が植えられてきれいであっただろう花壇は今は雑草がほとんど占拠していたが数本だけきれいな黄金の花が咲いていた。長い年月種をつけ続けてそこにとどまり続けているのかもしれない。そう考えるとすごい生命力のある花だ。
ふとテオは屋敷の方を見上げた。誰かが毎朝花壇を見下ろしていたのだろうと思って見たのだがそこには内側から塞がれている窓があった。
中に入ったらあの部屋を確認しよう。そう決めてテオは再び歩き出した。
屋敷の周囲を一周し終えるとテオは早速もらった鍵を使って屋敷の中に入った。入ったらすぐに玄関ホールがあり、左右に二階に上がる階段があった。その階段側にドアがそれぞれ一つずつ、正面には二枚扉があり、その先にダイニングがあるようだった。
一階の調査は後回しにしてテオは塞がれた窓のある二階を調べることにした。したのだが結論から言えば窓の塞がれた部屋はなかった。念入りに確認したので間違いはないはずだ。
テオは一つの推察から一つの絵の前にやってきた。美しい金髪の女性の絵が廊下に飾られている。そしてそこは本来ドアがるべき場所だ。
絵の右側の部屋が書庫で多くの本棚と本で埋められている。一方左の部屋は物置となっており異様に臭い。どちらも物が多くてぱっと見で部屋のサイズなんてわかるものじゃない。だから事前に外から窓の数を確認していなかったらテオも気づかなかったかもしれない。
テオは傷つけないようにそっと絵を取り外したがそこにあるのは壁だった。だが色に斑があり、明らかにここだけ別に塗られていることがわかる。
とはいっても壁を壊すような道具は持ちあわせていないのでこの場で用立てるしかないだろう。そうしてテオの視線は左の物置へと向く。
「………」
テオはしばらくためらっていたが覚悟を決めて部屋に飛び込んだ。そうしてテオは気分が悪くなることと引き換えに大き目な工具箱を手に入れた。最初に覗いた際に目についていたのでそこまで時間はかからなかった。
工具箱にはこの屋敷で使うのか疑問に思うものも含めていろいろな工具が揃っていた。壁の破壊に使えそうな大きめなハンマーを手にテオは壁の前で振りかぶった。そしてハンマーは壁に突き刺さった。
「………これはスポンジか?」
硬いと思っていたものは軟らかいスポンジ製の壁だった。テオはハンマーをくぎ抜きに持ち替えた。ハンマーより断然こっちの方が堀安そうだ。テオは一生懸命に振り下ろした。
スポンジの山ができた頃木の板が現れた。簡単に釘で打ち付けられていたので釘抜きの正しい使い方で釘を抜いて板を外した。すると部屋の入り口が現れた。
部屋の中は真っ暗でおそらくここが窓の塞がれた部屋だろう。
「あら、いったい何事かしら?」
テオが部屋の中に足を踏み入れるとそんな声が聞こえた。それは女性の声のようだった。
「塞がれた部屋に人? そんなのありえない。普通に考えれば餓死しているはずだ」
テオはそんな風に思い幻聴かと疑ったが声は再び聞こえる。
「暗くてわからないわね。誰かいるなら隣の部屋からランタンを持ってきてもらっていいかしら。多分今もつくはずよ」
声の主はいったい何者なのか、どうしてこんな場所にいるのかなど色々と聞きたいことがあったがその姿を拝んでからでも遅くはないだろうと考えて声に従うことにした。テオはそのランタンを探すのにとても嫌な思いをしたのだがそれはまた別の話だ。
苦労の末運び出したランタンだったが手元を照らすのがやっとで部屋全体を照らすには役不足だった。仕方なくテオはランタンを頼りに窓を塞ぐ板をはがすことにした。
「よくここに入ってこれたわね。いったい何の用かしら?」
テオが釘を抜くのに頑張てるところで声が話しかけてきた。
「……調査に来たんだよ。この屋敷をどうにかしたいって人がいるんだ。君こそこんな場所で何をしているんだ?」
テオはまず一本目の釘を抜くことに成功し、次の釘へと標的を映しながらそう尋ねる。
「そうね。あえて言うなら引きこもっていたといったところかしら」
それこそが目的だと言うように声はそう答える。何か事情がありそうだが踏み込んで聞くのはまだ早そうだ。
テオがどう返すべきか迷っていると逆に声が尋ねてきた。
「誰が依頼したかは知らないけど本人がやらない理由は聞いてるかしら」
「噂が立つのは嫌だって話だけど定かじゃないよ。多分理由は別にある気がする」
そこで二本目を抜き終わり、これで半分だ。三本目に取り掛かりながらテオは声に耳を傾ける。
「ここに人が来ないのは塀があるからでも門が閉じてるからでもない。ましてや幽霊屋敷だからなんてこともないわ。誓約に縛られてるからよ」
「誓約?」
コツがつかめてきたテオは三本目を抜き終わり、最後の釘に取り掛かりながらそう尋ねる。
「屋敷の主の許可なく立ちいらないこと。それが誓約よ」
「……でも僕はその主とやらから許可は得ていないけど」
「それはあなたが外から来た人だからよ」
テオはさらに質問を重ねようとして途中で思いとどまった。好奇心は人を殺す。相手の正体がわからない今はこれ以上は踏み込まない方がいい気がする。何か聞くのはこの板を外してからでも遅くはないはずだ。
そうと決まればテオは力を一気に入れて最後の釘を引き抜いた。それにより部屋の中に陽光が差し、部屋の中が一気に明るくなる。
「久し振りの日の光はさすがに眩しいわね」
テオは声のした方jを振り替ええて確認したがそこには誰もいない。あるのは天蓋付きのベッドだけだ。ただこの部屋の主は女の子だったのかベッドの上にぬいぐるみや人形が置かれているがそれだけで誰かが寝ているなんてこともない。
テオは不思議に思いながらベッドの人形を手に取る。ぬいぐるみの中に混じったこの精巧な人形をなんとなく手に取っただけで深い意味はなかった。
「あれ? この人形、部屋を隠していた肖像画の少女にそっくりだ」
テオはそう思うと同時に再び声が聞こえた。
「何よ。レディに触れるなら一声くらいあってもいいんじゃないかしら?」
「………!!」
テオは驚きのあまり危うく人形を落としそうになったが手から滑り落ちる前に力を入れ直した。
あり得るのだろうか。テオの目には人形が喋ったようにしか見えなかった。テオは混乱と驚きで声を発することができなかった。
「何よ。黙ってないで何か言ったらどうなの? あなた、人形にでもなっちゃったのかしら?」
「いや、人形は君だろ!」
テオは思わず大声でツッコミを入れていた。何はともあれ声が出せたことでテオはどうにか思考力が戻ってきた。
「君は一体何なんだ!?」
「それもそうよね。お互いまだ自己紹介がまだだったもの。私はメイよ。こう見えて私は人間よ」
テオの言葉にどうじることなく人形の姿をした彼女はそう名乗ったのだった。
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