8限目同好会(3)
なーさんが僕の話をしていた、だと?
なーさんこと、
そんな彼女は2年生の時に生徒会書記をやっていたので、
「せんぱーい。美旗さん? って人にただならぬ想いを寄せているのはよーく分かりましたよ?」
「これに関しては、私にさえも容易に分かる反応だったな」
さすがに今回は、自分でも考えていることが筒抜けだろうなと言う自覚はあった。なーさんのことを特別だと思っているのは事実だから否定もしない。ただ――
「勘違いしないでほしいけど、俗にいう恋愛感情ってのとは多分違う」
僕となーさんの間の複雑な事情は、不必要に言って回るような類のものではないと思っている。
「『多分』って付けてるあたり怪しいものは感じるんですけど、追及されたくない様子なので、これ以上はやめておきますね」
これまで散々からかってきていた
鼓ヶ浦先輩も、この話題はこれで終わり、と言わんばかりに手を叩く。
「そろそろ時間だね。せっかくの縁だし、ついでに参加していってくれると嬉しいなあ」
そう言って、鼓ヶ浦先輩が渡してきたビラは――
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【8限目同好会ゼミ ~キミの好きを教えて~ 第1回】
■題目
創作を行う場合に配慮すべき知的財産権について
■開催日時
2019/11/01(Fri) 16:10~ 3号館3階 空き教室
■発表者
鼓ヶ浦
■対象とする聴講者
・既存のものをモチーフとした創作に関心のある方
・創作物の権利およびパブリシティ権に関心のある方
■前提とする知識
なし
■概要
既存のものをモチーフにすることは、創作上有効な手段となる。
しかし、それを発表する際には種々の権利を考慮する必要がある。
既存のものをモチーフにして創作する際に考慮すべき権利として、
著作権とパブリシティ権を挙げ、説明する。
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「『キミの好きを教えて』?」
パッと見て目に留まったワードを疑問調に読み上げながら、ビラから顔を上げる。
「直球過ぎてちょっと照れ臭い表現かな、とは自分でも思ったけどねえ。それくらいの方が刺さるかなって」
照れ臭いと言いながらも、こちらを真剣な眼差しで見つめる鼓ヶ浦先輩からは、
「単に私が色んな人の話を聞きたいなあって思って立ち上げたのが、この8限目同好会なんだけど。さすがに初回から人任せって訳にもいかないからねえ。今回は私が話す訳なんだ」
太陽のように目を輝かせながら語る彼女に対して、僕の方は雲行きが怪しくなっていくようだった。
インターネットで世界中の人間が発信する情報を調べられるこの時代、こんなアナログな方法に何の意味があるというのだろう。何をしたいのかが全く理解できない。
「何か随分と冷めた目をしていますが、逃がしませんよ、ソーロせんぱい? あたし達2人だけでやってもあんまり意味ないので」
「いや、でも僕、知的財産権? とか興味ないし」
創作もしないし創作物の権利にも興味がない僕が、「対象とする聴講者」にマッチしていないのは自明だった。
「こう書いてはいるけれど、率直に言って、今回は誰でも良いから聞いてもらって、8限目同好会の知名度を上げたいってのが本音なんだよねえ」
その言葉を聞いて僕は教室を見渡すが、僕たち3人以外の姿は見当たらない。僕たちが話している間に入ってきた人はいなかったので、当然のことだ。
「生徒会長も務めた身だっていうのに、意外と人望ないんだよねえ、私」
僕の言いたいことを感じ取ったのか、また苦笑する鼓ヶ浦先輩。ニヒルな表情が似合ってしまうあたり、本質的には
「そういう訳だからさあ、聞いていってくれると嬉しいなあ」
「とはいっても、興味なさげに聞いて気分を害するだけになると思いますよ?」
「そこは、ちょっとでも興味を持ってもらえるように私も努力するつもりでいるよ」
「知愛せんぱいにここまで言わせておいて、断るんですか?」
加えて、中川さんまで脅迫めいたことを言ってくる。それを聞いて、もはや退散できそうにないと判断した僕は、抵抗することを諦めた。
「仕方ないですね……」
「ありがとう」
鼓ヶ浦先輩が切実な表情で握手を求めてきたので、僕はそれに応えた。やっぱり、さっきまで無理して明るい雰囲気を装っていたのかもしれない。
その後数分待ったもの僕たち以外の人間が現れることはなく、定刻16時10分を迎える。その間、この場を離れるタイミングはいくらでもあったのだが、どうせまた引き留められるのが目に見えているので、僕は窓際最後尾の席でじっとしていた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。8限目同好会のスポークスマン、中川
中川さんの大仰なイントロダクションを受けて、鼓ヶ浦先輩は教壇に登る。
「ただいまご紹介に与り――」
「ごめんなさい、遅れました!」
中川さんの導入を受けてか、こちらも堅苦しいものとなりそうだった鼓ヶ浦先輩の挨拶は、しかし、男子のものと分かる低めのものながら、どこか可愛らしさを感じさせる声に一蹴された。
「3年3組の
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