02話.[問題ないからね]

 冬休みになった。

 大晦日付近に慌てなくて済むように掃除をしてしまうことに。

 が、


「あ、懐かしい」


 こういうときはすぐに脱線してしまうのが人間といったところ。

 アルバムを見て懐かしさを味わっていたら怖い顔で若菜が入ってきて慌てて再開。


「脱線していると思ったわ」

「ご、ごめん」


 そこからは言葉でちくちく刺されながらも集中。

 部屋が終わったら1階に移動してキッチンの上の棚の中なんかも整理していく。

 大体は私達ふたりが使う物だから手を出しても怒られることはない。


「それは手前の方がいいんじゃない?」

「え、そう? あんまり高頻度で取り出す物ではないから奥でいいと思ったんだけど」

「そういう物に限って取り出したくなってあーってなるものなのよ」

「じゃ、若菜がそう言ってくれていることだから手前にしよっか」


 そもそもここは私の身長だと微妙だから若菜に任せておけばいいか。

 それよりももっと高頻度で開け閉めし、道具を取り出したり入れたりを繰り返す下の方を弄っていくことにした。

 整理だけではなく掃除をすることが目的だから一旦全部を出してから、だけど。

 ……なかなかに大変だ。


「そういえばさっきのってアルバムでしょ?」

「うん、幼稚園の頃の写真とかもあって懐かしくてね」

「後で見せて」

「いいよ」


 キッチンを終えたら洗面所やお風呂場に移動して綺麗にしていく。

 順番がめちゃくちゃだが綺麗になっていくのは気持ちが良くていい。

 遊びに行かずに若菜が手伝ってくれていることも大きかった。


「はぁ、新年になったらすぐに私立の受験ね」

「緊張する?」

「そうね、緊張するわ」


 私立受験は隣の市まで行かなければならなかったから朝は暗かった。

 ほとんど誰もいないホームで電車を待って、学生がいてくれると少し安心して。

 残念ながら同じところを志望する人はいても仲良くはなかったからひとりだったけど。

 結局、本番のときはひとりだとしても誰かといられるだけで違うからね。

 本当なら誰かがいてくれれば良かったけどなあ。


「若菜と同じ場所に行く子はいるの?」

「どうかしらね、友達は別のところに行くみたいだから」

「ひとりだと不安になるから誰かがいてくれた方がいいよ、仮に初対面でも一緒に行けるだけで全然違うと思うから」

「そうね、なかなか電車に乗るということもしないから不安になりそうだし」


 あ、そうだ、なにが不安だったかってそれもあったんだよね。

 電車なんかに乗らなくてもお店には行けるから不慣れだった。

 だから当日は逆へ行ってしまっているんじゃないかとかって着くまで不安だったな。

 その点、普通レベルであっても知っている子と一緒に行けたら気も休まると思う。

 ……気まずいことはあるかもしれないがひとりで不安に押し潰されそうになるよりはいい。


「あ、それか高校の近くまで私も付いて行ってあげようか?」

「いいわよ、七菜にメリットがないじゃない」

「あるよ、頑張ってって直接本番前に言えるから」

「いいって、姉が現地まで送りに来るとか恥ずかしいし……」


 そ、そういうものだろうか? そういうものなのか……。

 あんまり姉とかと仲良くしているところを見られたくないのかな。

 そう言っていた子がよくいたからな、若い子特有の考え方なんだろうな。

 本人は仲良くしたくても周りがそれを良しと判断しないのかも。

 家族と仲良くする=ださいみたいな考え方をする子達は私の代にもいたから。

 自分が上手くいっていないからそう口にし、これまで普通に仲良くしていた子が引っかかって冷たく接していく内に~的なこともあるのかもしれない。

 物理的にも精神的にも声が大きい子がそういうことを言っているとみんなもそう考えているのではないかと不安になってしまう可能性も大だ。

 あたかもそれが当たり前のような言い方はしないでほしかった。

 家族と仲良くできていた方がいいに決まっているから。


「七菜、手が止まっているわよ」

「あ、ごめん」


 擦って擦って、とにかく擦ってタイルなどを綺麗にしていく。

 普段お世話になっている場所だからなのと、利用するときに綺麗でいてほしいから真剣に。


「ふぃー……」

「休憩でいいわよね?」

「うん、ちょっと休みたい」


 普段からこまめにやっておいて良かった。

 もしそうでなければどこから手をつけていいのかが分からずに結局やりませんでした~で終わっていたと思うから。

 が勉強もそうだがとにかく普段からの積み重ねだと今件でよく分かった。


「はい、温かいから」

「ありがとー」


 若菜にはアルバムを渡して、こちらは温かいのを少し飲んでから床に寝転んだ。

 先程綺麗にしたばかりだから気にする必要はない、が、自分が汚れているかもしれないということを考えて結局座っておくことにした。

 若菜は真面目な顔でアルバムを眺めている、そんな妹を私は真っ直ぐに見つめている。


「あ、これ懐かしいわね」

「あー、それは若菜と初めてご飯を作ったときの写真だね」


 可愛かったなあ、「おねえたん」とか呼んでくれてさ。

 お互いに小さい頃だったからただご飯を炊くというだけでも苦労したのを思い出せる。


「こっちの夏祭りの集合写真も懐かしいわ、この後七菜と喧嘩になったから」

「あったねえ」


 なんで若菜ばっかり可愛がるのって叫んで、若菜を泣かせて。

 両親には当たり前のように怒られて、拗ねてひとりで家に帰ったこと。

 小さいし夜だったから怖かったこと、うん、いまとなっては大人気なかったと分かる。

 そりゃ、私よりも小さい若菜を気にして当然なんだ、お祭り会場なんてそうでなくても人がいるんだから見ておかなければならないという気持ちになったのはいまなら容易に想像できるし。

 だからあのときのことを考えると顔から火が出そうな気持ちになる。

 恥ずかしくてやばいぜ。


「でも、すぐに仲直りしてその年の夏休みはずっと一緒にいたわよね」

「どこに行っても若菜が付いてきてくれたからね」

「そう考えると昔からお姉ちゃんっ子なのかもしれないわね」

「お姉ちゃんっ子が送られて恥ずかしいとか言う?」

「そ、それとこれとは別よ、それに甘えたくなってしまうから」


 気にせずに甘えてくれればいいじゃないか。

 若菜は私の妹で、私は若菜の姉なんだから。

 変な遠慮はいらない、というか頼ってくれないと寂しくてやばい。

 千晶はいつでもこっちを切れる立場にあるから下手をすればすぐに終わる。

 もしそうなった場合に若菜が求めてくれているのであれば絶望を感じなくて済むだろう。


「私は若菜の姉だからね、甘えてくれると嬉しいかな」

「じゃあ、ちょっとお腹を枕代わりにしてもいい?」

「いいよ」


 心地のいい重みがお腹に加わる。

 若菜はいつまでこうして甘えてくれるのだろか。

 高校生とかになったら難しくなるよね、部活をするみたいだし。

 もしそうなったらほとんどこの家でひとりになるのか。

 部活が終わるのを待ったところで相手をしてくれるとも思えないし仕方がないよね。


「七菜に触れていると落ち着くわ」

「私は甘えてもらえて嬉しいよ、若菜が甘えてくれている時点で驚きだけどね」

「なんでよ?」

「なんというかその、若菜みたいな子は姉とかいてもうぜえとかって言う感じだから」

「偏見じゃないそれは、私みたいに姉思いの人間もいるわよ」


 少なくとも現時点はそうだからそうだねとだけ答えて目を閉じた。

 やばい、なにもかけていなくて寒いはずなのに暖かくて眠ってしまいそうだ。

 一応まだ掃除することはあるんだぞー、寝ちゃだめだぞー。

 でも、まだ初日だからゆっくりすればいいじゃないかって考える自分もいるんだ。


「若菜、布団をかけて一緒にお昼寝しよ?」

「はは、そうね」


 風邪を引いたら馬鹿らしいからさすがにそれはかけなければならない。

 かけるとなるとお腹に頭を乗っけたままだと苦しいだろうから並んで寝ることにした。


「暖かいわ」

「そうだねえ」


 おやすみ、数時間後の私に後は任せよう。




「七菜、起きなさい」

「ん……うん」


 体を起こして目を開けてみたらもう真っ暗だった。

 ああ、任せる前の自分が寝すぎてしまったようだ。

 そりゃ、自分なんだから変わらないよなって苦笑。


「いま何時?」

「いまは17時ね」

「そっか、んー! はぁ、19時とかじゃなくて良かったよ」


 布団を横にやって出ようとしたものの、寒すぎてすぐに引きこもる羽目になった。


「ご飯はどうするの? まだ動きたくないなら作ってくるけど」

「いいよ、私が作るから若菜がゆっくりしておいて」


 姉が情けないところを見せてはいけないのだ。

 そうでなくてもぎりぎりのところで繋がっているようなものなんだから余計に。

 せめて利用価値があるように見せなければならない。


「さて、カレーかハヤシライスかシチューか、どうしようか」

「私はハヤシライスが食べたいわ」

「分かった、じゃあそれにしよう」


 これは本当に楽だ、牛ではないけど豚肉と玉ねぎを炒めて煮込むだけ。


「若菜はパンも食べるんだよね?」

「うん」


 ご飯にもすっごく合うしカレーとかシチューの万能感がやばい。

 ま、ご飯が最強なんだけどね、これに勝てるのは多分ない。


「食べよっか」

「そうね」


 基本的に両親と食べられることはなかった。

 待っていたら日が暮れるどころか日が変わるから仕方がない。

 両親からも気にしないでと言われているから私達が不良娘というわけでもない。

 いやでも本当にたまには一緒に食べたいなあと。

 せっかくの休日なんだからという考え方もできるけど、せっかくの休日なんだから夫婦水入らずで過ごしてほしいと思うし、なかなかに上手くはいかないのが現実と言える。


「あ、クリスマスのことなんだけど」

「やっぱり友達と集まりたいよね、学校がみんな一緒というわけじゃないから」

「え? 違うわよ、でっかいお肉を買いたいって言おうとしたの、あとはケーキね」

「え、いてくれるの? ひとりぼっちにならなくて済むの?」

「当たり前じゃない、仮に急に誘われても七菜と過ごすためにこっちを優先するわよ」


 なんていい妹に育ってくれたんだぁ……。

 本当にありがたいよ、ここまでなら仮に友達を優先してくれても怒らない。

 寧ろ友達と仲良く過ごしてほしかった、そのためにならひとりでも我慢できるよ。

 そう言ってみたものの、若菜はこっちを優先するとしか言わなかった。


「若菜、お姉ちゃんは嬉しいよ」

「いちいち大袈裟な反応をしないで、去年は友達を優先してしまったから今年は七菜とって考えただけよ。ほら、去年はひとりだったわけだから」

「うん、去年もお父さん達はふたりでお出かけしてたもんね」


 じゃ、ケーキとかお肉とか買っちゃいますか!

 豪勢なクリスマスパーチィとまではいかなくても、若菜と楽しめればそれでいいから。

 若菜はとにかくお肉が好きだからね、ローストビーフとかがあってもいいかもね。


「呼びたかったら千晶を呼んでもいいわよ?」

「ううん、残念ながら断られちゃったから」

「へえ、誘ったのね」

「ううん、誘う前に断られたが正しいかな」


 でもまあ、たまには妹と過ごすクリスマスというのもいい。

 ……ほとんど毎年ひとりだったから余計にね。

 両親はそんな私のために3万円ぐらいぽんと置いていってくれるけど、ひとりで、1日で消費できるレベルじゃないから逆に虚しくなることも多かった。

 そのため、1000円ぐらい使わせてもらって返すのが常となっていたからそれを終わらせることができるのは嬉しさしかない。


「受験勉強頑張るわ」

「うん」

「それで1年だけだけど七菜と一緒に通う」

「早く一緒に通いたいよ」


 別々の学校なのと妹が同じ学校内にいてくれるのとでは全く違うから。

 仮に千晶が他の子を優先しようと若菜のところに行けばいいのは大きい。

 ただ、姉が楽しい学校生活の邪魔をしてはならないから遠慮するだろうけど。


「でも、その前に冬休みを楽しむわ」

「はは、そうだね」


 1日1日を味わって過ごしておかなければあっという間に終わってしまう。

 高校を卒業するときにいい3年間だったと言えるように意識して行動しないと。

 まずは強がっていないで友達を作ろう、来年になってからではあるが。




 当日だと混むうえに品切れの可能性があるからと23日にお店へとやって来た。


「なんというかその、複数の物が食べたいわね」

「分かる、ひとつは少なくてもいいから色々な物をね」


 ホテルのバイキングを再現――は無理だけどそれと似たような形を。

 本当にひとつずつは少なくていいから少しずつ食べられる物をいっぱい並べたい。

 ちなみに軍資金は昨日両親に言ってみたら2万円を貰えた。

 なのである程度は余裕がある、もちろん全部使う気はないけども。


「とりあえず、気になった物をカゴに入れていくわよ」

「え、本当に買う物だけを入れればいいんじゃ?」

「大体、入れた物=買う物だからいいのよ」


 そういうものかなあ、他人に無闇に触れられたくない人もいると思うけど。

 こっちはちゃんとチェックしておくことに決めた、やっぱり適当に入れて後でほとんど戻すなんてしたらこっちが申し訳なくてしょうがないし。


「こんなところかな」


 ほっ、なんとか現実的なレベルに絞ってくれたうえに戻すつもりはないようだ。

 持たせてしまうのは悪いから私が持って帰ることにする。

 若菜がいてくれてよかった、だってひとりだと1000円すら使うのが申し訳ないから。

 だってさ、それって結局自分が努力をしなかったのが悪いわけなんだから被害者面はできないからね。

 その点、今年は大切で大好きな妹がいてくれるから最高。


「もしもし? え、いまから集まりたい? イブと本番は無理だから? まあ、今日ならいいけどね、分かった、いまから行くわ――ごめん七菜、呼ばれたから行ってくるわ」

「うん、行ってらっしゃい、気をつけてね」

「七菜もね」


 仮にこれで明日もとなってもよかった。

 その場合は余計なことを言わずに行ってきなさいとだけ言ってあげることにしよう。


「ふぃ~、重かった~」


 冬とはいえ冷蔵庫にきちんとしまってリビングで休憩。

 ただ、やることもやってしまっていて暇だ、どうしよう。

 急ぎで学ばなければならないこととかはないし、それをやらなければならないのは若菜だし、呼べるような友達はいないし、どうせ呼んでも千晶は来ないだろうし。

 こういうときのためにやはり友達作りは重要だ。

 だって3年生になってから作ってももう遅いから。みんな就職活動か受験勉強を頑張ることに集中したいから新しい友達なんていらないだろう。


「あぁ、こたつは最強だぁ~」


 やむを得ない事情以外で外に出ている人はいますぐこたつ内に戻った方がいい。

 中にはこたつがない人もいるかもしれないが、大抵の人は暖房機器とかがあるだろうから?

 もしそれすらないのだとしても、お布団とかに入っていればぬくぬくして幸せになれるからやはり家に戻るかお店内に突撃するべきだ。


「惰眠を貪って過ごすのもまたひとつの過ごし方だよね」


 独り言だって増えてしまう。

 でも、正直に言おう。

 やっぱり若菜がいてくれる方がいいな。

 

 


「七菜、起きてー」

「ん……? え、なんでここにいるの?」


 電気が点けられて眩しさについ目をぎゅっと閉じる。

 少しずつ開けて目を慣らせてから声の主を探した。

 その声の主は私のベッドに腰掛けて悠長に手を上げたりしている。


「いま何時だ……?」


 携帯を探していたら「もう0時を越えているよ、つまりクリスマスイブだね」と彼女は教えてくれた。

 そうか、これはまた寝すぎてしまったようだ。


「え、というか若菜は?」

「泊まってくるって七菜の携帯にメッセージがきていたよ」


 当たり前のように触っていることは気にしないでおく。

 そうかお泊りか、そりゃ友達と一緒にいたいか。

 1月になればもう受験はすぐそこだと考えて心から楽しめなくなるかもしれないし。

 たった数日とはいえ12月なのと1月なのとでは全く違うから。


「そっか、それで千晶はどうやって入ったの?」

「若菜ちゃんが着替えを取りに来たんだよ、そのときにあ、どうせならって頼んだの」

「ごめんね、寝ちゃってて」

「別にいいよ、お休みなんだからゆっくりすればいいんだよ」


 そう、休みだからこそ私は長時間寝ていたんだ――って、開き直っているようにしか聞こえないからこれ以上はやめておこうか。

 とにかく、千晶が来てくれて良かったかな、これでもうイブを一緒に過ごしたことと一緒になるから仮に若菜が帰ってこなくても問題ないからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る