【問3の答え】三角形【赤絨毯】
ママは怒っていた。わたしが三角形も書けないバカな子だから。ママの掌が頬を叩いた。何度も何度も。
最初は痛かった頬も、今はじんじんとした感じだけが残って、感覚はなくなっていた。
わたしが座布団の上で蹲っていると、ママはテーブルの上に置いてあったタバコを手に取ると火を点けて吸い始めた。
怖い。
あの火を押し付けられたときの痛みを思い出す。あれは叩かれるより嫌だ。ずっとびりびりした痛みが残るし、傷口から透明な液体がいっぱい出て来て臭いし、治って来ても
前は首のうしろにやられた。服を着ると
ママと目が合った。
チッ、と言う舌打ちが聞こえた。焼かれる。怖い。
——ピロンッ。
ママのスマフォの着信音が鳴った。わたしから目を逸らして、しばらく画面を見ていたママ。少しずつ口の角が吊り上がっていく。機嫌がいいときの顔だ。タバコの火は灰皿に押し付けられた。良かった。
ママは立ち上がって上着を羽織ると、わたしを見ることなく玄関へ向かった。
「出掛けてくるわ。お留守番してて。勝手に外に出たら、わかってるわね?」
ぎろりと睨まれる。
「……はい」
わたしは唾を飲み込んでからゆっくりと頷いた。
ママは玄関から出てドアに鍵をかけた。
彼氏のところに行くんだ、きっと。
前にママにどこに行くのか聞いたときにそう言っていた。「ママはきれいだからモテるんだ」と自慢していた。でもパパはママがきれいなのにどこかに行ってしまった。凄い研究をするんだとか言って自慢していた。二人ともわたしに自慢ばかりしてくる。これが『自慢の親』と言うやつなんだと思って聞いていた。
ママは「花子はきれいじゃないからモテないし結婚も出来ない。だから一人で生きて行けるように勉強を教えているんだ」とも言っていた。
勉強。ママは教えてくれてないよ。怒っているだけ。わたしが間違ったことを怒っているだけ。
わたしはベランダの方の窓へ歩いて行った。
アパートの4階。ここからは電線と電柱と電車のレールが見える。空は青いけれど、隣のアパートのせいであまり見えない。
今日もご飯は食べられない。
ママは泊ってくるから。冷蔵庫の中から勝手に出して食べると、また叩かれてしまう。だから今日のご飯は水道の水だけ。塩を少し舐めるくらいならバレないから、たまに舐めている。
ご飯が食べられないくらいならいい。火傷するよりずっといい。わたしはママの彼氏に感謝している。そのままママを連れてどっかに行ってくれないかな。そうしたら冷蔵庫のハムもソーセージも食べ放題だ。なんとかならないかな。
そんなことを考えながら道路の方を見ていると、ママがカツカツ歩いていた。やっぱり線路の向こう側へ行くみたい。彼氏に呼ばれたときはいつもその道を行くから。
人通りは全然なくて、ママは一人で歩いていた。線路を渡り始めたとき——
ピカッ!
物凄い光に目を瞑った。そのあとすぐに大きな音が響いた。
「雷!?」
ママの近くが光った気がした。そう思って目を開けると、そこには電車が走っていた。
「え」
いきなりのことにびっくりしてしまって、それ以上なにも言葉が出てこなかった。いつもの電車が来るときの音はしなかったのに。さっきママが居た場所を、ガタンゴトンと音をさせて電車が——いや新幹線が走っていた。新幹線が通り過ぎてから、なにかが壊れる音がそこら中に響いて、とてもうるさかった。
ママが居た場所にママは居なくて、でもブランド物のバッグだけが捨て置かれていた。その下にはいつの間にか赤黒い
よくわからないけれど、なんとかなったんだと思った。
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