第7話 執事達は調理場で

アキがスイーツを作っていると調理場の扉がバンッと勢いよく開かれた。

その音を聞いてもアキは振り向く事もなく淡々と作業を続けている。



「アーキ!何してんだ?」


「見てわかるでしょ?アテナちゃんの好きなプリン作ってるんだよ。」


「プリン!俺も食べたい!!」


「沢山あるからいいよ。」


 アキは手を止める事も、ナツに視線を向ける事もなくさらに作業を進めている。

 ナツは目をキラキラさせながら、そんなアキに背後から抱きつき手元を覗き込んだ。



「やったー!じゃあ、俺も手伝うー!」


「ダメだよ。なっちゃん壊滅的に不器用じゃん。」


「大丈夫!簡単なことだけするから!させてよ!」


 アキは少し逡巡したあと大きな溜息を一つ吐いて、作業の手を止めた。

そんな様子にさらにご機嫌になったナツは抱きついている手をほどき一歩後ろへと下がった。そうすれば、少しだけ不満そうな顔をしたアキがナツの方へと振り向くのだ。



「じゃあ、そこにある飾り付け用の苺切っといてくれる?剣扱うの上手なんだから、包丁使えるでしょ?スライスでお願いね?」


「了解!了解!任せとけって!」



〜数分後〜


 プリン液を型へと流し込みオーブンのスイッチを入れ作業がひと段落したアキがナツの様子を見に来た。


「なっちゃん出来たー?」


「なぁ、アキ。この苺おかしいぞ。全然固まらない!」


心底不思議そうにそう訊ねるナツにアキは眉をひそめた。



「は?固まらないって何?....あー!なんでペースト状になってるの!?どうやったらこんなことになるの?ばかなの?」


只々、苺を薄く切ってと頼んだだけなのに、何故か、まな板の上にはそれはそれで美味しそうなトロッとしたペースト状の苺があった。

アキは若干引き気味である。


「包丁って難しいのな!剣と扱いが全然違う。同じ刃物なのに、こんなに扱いに困るなんて、俺もまだまだ剣の修行が足りないってことだな!」


バカと言われようがどこ吹く風のごとく気にしていないナツはアハハとどこまでも爽やかに笑っている。そんなナツにアキは溜息しかでなかった。



「はぁ、もうこれはソースにするよ。なっちゃん!いい?包丁はこうやって持つの!手貸して!」


「なに?教えてくれるの?」


「また何かお願いしてペーストにされたらたまらないからね。それにしても、なっちゃんの手無駄に大きいんだよ!背も!せっかく教えようにも手が握りにくいんだよ。」


切る感覚を教える為に、包丁を握るナツの手の上から自身の手を重ねたアキだったが、明らかにナツの手の方が大きく何ともやり辛そうだ。



「剣握ってること多いから大きくなったのかもな!アキは背も手も小さいな!はははーーーっうわ!危なっ!」


「あ、ごめん。手が滑っちゃった。次は刺すよ?」


「怖いよアキ!アキが一番包丁握ったらダメな人じゃん!」


「うるさい。ほら手貸して!左手は猫の手!こうやって....」



そんな二人の姿を調理場の入り口から温かく見守る影が二つ。



「良い眺めだね。ね、フユそう思わない?」


「え?あぁ...そう..だな?」

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