第23話 聖女の務め・自身を恥じる勇者。
ジェイドの顔を見て赤面をするカナリー。ジェイドは何故赤面されたのか理解に困ってしまいカナリーに聞こうとしていた。
「カナリー?」
「ジェイド様、聖女としての私の任期はもう後少しなんですよ」
突然カナリーが話題を変える。
「私の前の聖女も10年。
その前も10年でした。
ずっと10年です。
次の聖女は妹のフランがなります」
「10年…」
「はい。正確には任期ではなく「限界」なのです」
限界と言う言葉が不穏なものだとジェイドは瞬時に察する。
「限界?…まさか…」
「はい。聖女の力は…命を削ります。皆10年しか保たないのです」
悲しむ様子もなくカナリーが言葉を口にしていく。
「カナリーは9年と…」
「はい。あと少しで10年になります。私の命はもう尽きます。
下でフランにお会いしましたよね?
フランも私と同じ聖女の姿をしていましたよね?」
もう次が控えていると言う事は、一両日中にカナリーの命が尽きると言う事だ。
「そんな…」
「仕方ありません。それが聖女の役目。
この村に生まれた女の使命です。
この村の女は皆使命を与えられます。
ジェイド様も勇者としての使命があるから今ここに居ますよね?」
カナリーの言葉がジェイドに重くのしかかる。
「だが…、君たちの事を俺は何も知らなくて!」
「仕方ありません。秘匿しておかなければ亜人共が攻め込んできます」
そう言ってカナリーが微笑む。
ジェイドは驚いていた。
何故カナリーはこんな過酷な運命に耐えて笑顔になれるのか…。
そして驚く間もなくカナリーが言葉を続ける。
「私には姉が居ます。姉は聖女を私に譲ってくれました」
「それは!?」
譲ったと言うが、それはカナリーの姉は死が怖くてカナリーに辛い責務を背負わせたのではないか?ジェイドはそう思った。
だがその考えが間違いであったとすぐに気付かされる。
「姉には2人の子供が居ます。
男の子と女の子です。
ですが2人とも父親は誰かわかりません。
顔を見れば何となく想像は付きますが明確に認知は出来ません」
「え?」
突然の告白。
姉の子が居ると言う話。
確かにカナリーの年齢ならば結婚をする者も居る。
姉なのだから子供が居てもおかしい年齢ではない。
だが、父親がわからないと言うのはおかしい話だ。
確かに性を職業にする女性なんかはそう言う者も居ると聞く。
だがこの村で何故聖女と呼ばれる存在の姉が父親のわからない子を2人も授かっている?
ジェイドは混乱をする。
そしてその答えはすぐに出た。
「姉は次代の聖女を生む為に不特定多数の男性を受け入れ続けています。
多分今日も明日もその先も…聖女を授かる為に続きます…」
「何だそれは!?」
ジェイドは聞いたことがないと慌てる。
「姉だけではありません。他の女達もそうして世界の為に身を捧げています」
「そんな…、そんな事が…」
自身の知らない場所でこんな話がある事を想像していなかったジェイドは青い顔でカナリーが話す言葉を聞いていく。
ジェイドは亜人に捕らえられた4年の日々でどうやって復讐をするか、亜人ならどういう考えで襲い掛かってくるか、どう倒せば効率的で苦痛を与えられるかを考えていた。
だがこういう話は何も考えてこなかっただけにショックが大きい。
「私の母は運良く父に巡り合えて父しか知りませんがそれでも生まれつき弱い身体に無理をさせすぎたのでしょう。
妹のフランを産んですぐに亡くなりました」
「…」
今ジェイドは泣きそうな顔をしている。
何故こんな辛い話が世界にはあるのだろう。
そう思ってしまっていた。
「そんな顔をなさらないでください。
仕方ありません。
村の決まりで女は娘を3人産めば許されます。
姉もあと2人です」
そう言ってカナリーは笑う。
ジェイドは自身を恥じた。
日が沈む度に傷だらけになる自分を見るたびに、失った家族や民を思うたびに自身が世界で一番救われない存在だと思っていたからだ。
だが世界は広い。
今目の前の女性は一両日中に尽きる命を前にして微笑み、女性として男性のジェイドには考え付かない苦労をしているのにまた笑った。
それなのに自分と言う男は何をしていたんだと恥じた。
「ジェイド様。私の最後の命を貰って頂けませんか?」
「え?」
突然真剣な表情のカナリーがジェイドに問いかけてきた。
最後の命を貰って欲しいと言う。
「最後の時間を共に過ごしてください」
カナリーはそう言ってまた微笑んだ。
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