第24話 戦友。

カナリーに最後の時間を共に過ごしてほしいと言われたジェイドが驚く。


「俺と?」

「はい。この10年、ずっとジェイド様を気にしておりました。

ジルツァーク様からジェイド様の事を初めて伺ったのは「カナリー、あなたと同い年の体の勇者が修行を開始したのよ。ジェイドって言って、とても良い子なの」と言うお言葉でした」

カナリーは目を瞑って懐かしむように話していたが懐かしむと言うより辛そうにしている。

本当に命が尽きる寸前なのかも知れない。


「ジェイド様が旅立たれる時、私は任期を終えてフランに聖女を譲って居るのですが、どうしても頭の中のジェイド様は私が守る穴を抜けて亜人界へ亜人達を討伐しに向かうのです」

頬を染めたカナリーがまるで昨日を思い出すように話す。


「ですが…4年前、ジルツァーク様から聞いたのはまさかのお言葉でした。

「カナリー…、ジェイドが…ジェイドが亜人に捕らえられた。グリアは滅ぼされてジェイドだけは体の勇者だから死ななかったけど防人の街で今も酷い拷問を受けているの」

私はその日、どうすることも出来ずに涙を流しながら祈りました。

ジェイド様の無事を祈り続けました」


「カナリー…」

「そして先日いらしたジルツァーク様が、ジェイド様が剣と魔の勇者様に助けられてブルアに着いたと教えていただきました。

私はその時ジルツァーク様にお願いをしました。

最後の命でジェイド様のお役に立ちたいと…。

妹のフランにはほんの少しでも早く聖女を引き継ぐ事になっても私はジェイド様の為に残された命を使いたかったんです」


ジェイドはようやく口を開くことが出来た。


「何故…、俺なんかの為に?」

「ふふ、戦友だからでしょうか?」

またカナリーが嬉しそうに笑う。


「戦友?」

「はい。聖女になる事が決まった日、なった日はとても不安でした。

誰にも頼れない孤独な戦いだと思っていました。

でも弱音は吐けない。

世界の為に自分の心を殺して聖女を授かる為に身を捧げるアプリ姉さんや今までに死んできた歴代の聖女達。

そう思って歯を食いしばったのですが、私は未熟者だったから怖くてたまりませんでした。

でもジルツァーク様から聞いたジェイド様の存在が私を今日まで支えてくれた。

同じ頃から世界の為に頑張る同い年の戦友。

そのジェイド様に私の残された全てを使わせて貰いたい。

そのワガママを父も姉も妹も…村の皆もジルツァーク様も認めてくれました」


「…そんな…」

「もう私は長くありません。だから最後の時と力をジェイド様に…」

カナリーがそう言ったところでジルツァークが入ってくる。



「ジェイド!」

「ジル!?」


「亜人が来た!聖女が居ることが秘密のこの場所に亜人が来るなんてモビトゥーイが亜人達に力を貸したんだよ!」

そう、ジルツァークがジェイド達人間に手を貸すとモビトゥーイも亜人達に手を貸せたり人間を殺せるようになる。

その逆もあって、モビトゥーイが何かを先にする事もある。


「くそっ、ジルの干渉値は?」

「少し余裕があるよ。多分防人の街からジェイドを助ける時に手を出した分が相殺されたんだよ」


「ちっ、こんな時にか…」

ジェイドは忌々しそうに外を見てからカナリーを見る。

カナリーの願い。

最後の時を共に過ごしたいと言う願いを叶えたかった。


「ジル!セレスト達ではダメなのか?」

「…うん。森に隠れて四方から来ているから、経験のないセレスト達だけだと危ないし、村に攻め入られるとフランの次の聖女達が危ないし、今も妊娠している女の人達が居るから…」


そう言われたジェイドはカナリーを見る。

カナリーは息が荒く脂汗をかいている。


「平気です。

私は頑張りますから皆を助けてください。

私はここで祈ります。そしてジェイド様を待ちます。

一緒に戦わせてください」


カナリーは泣いていた。

最後の時すら邪魔が入った事が悔しいのだろう。

ジェイドは苦しかった。


「俺の戦い方はスマートじゃない。カナリーを幻滅させるかも知れない残酷で残虐な戦い方だ」

「でもそれがジェイド様です。共に戦わせてください」


ジェイドは辛そうなカナリーを見た後で深呼吸をする。

「わかった。では少しだけ待っていてくれ。奴らを皆殺しにする」


「はい。御武運を…」

そう言って力尽きたカナリーを抱き抱えたジェイドが部屋に置かれたベッドに寝かせるとジルツァークに行くぞと声をかけて窓から飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る