第22話 カナリー。
泣きながら走って行ってしまったフランを見てジェイド達が心配をする。
特にフランの視線が自分に注がれていると思ったジェイドが追いかけようとする。
「あ…おい…」
「良いんです。まだ幼い子供には理解はできません。勇者様。よく来てくださいました。
体の勇者様は塔へ、残りの御二方はここでごジルツァーク様と事情を説明をさせていただきます」
カドがジェイドに道を譲ると後ろには塔の扉が現れる。
「ジェイド、そう言う事だから行ってきて」
ジルツァークが困った顔でジェイドに話しかける。
悲しそうな困った顔だ。
「ジル?」
「上に居るカナリーに会えばわかるから…ね?」
ジルツァークが悲しげな顔でジェイドに言うとジェイドは不思議な気持ちで塔に入る。
塔の中は至ってシンプルで螺旋階段が上まで続いていた。
そして塔の小窓からは壁と穴が見えた。
穴の前には先ほど設置したポイズン・ウォールが見えている。
ジェイドは高所から壁を見た事が無かったが壁は高くそびえ立っていた。
しかし壁と呼んでは居るが本物の壁ではない。
真っ黒な防御魔法。
この世界、人間界を覆う魔法障壁。
それをいつの頃からか壁と呼んでいた。
「壁の向こうはエルフやドワーフ、ドラゴンが住む上層界。その先が亜人界…」
ジェイドは地の果てを見てそう呟いた。
塔の最上階には扉があってジェイドはノックをしてから中に入る。
中には同い年くらいの女性が床に座ったまま深々とお辞儀をしていた。
「お待ちしておりました。体の勇者様」
「君は?」
ジェイドは突然の事で驚きながら一つずつ確認をして行く。
女性は先ほどのフランと同じ黄色基調の服を身にまとっていた。
「私はカナリーと申します。現・聖女になります」
「聖女?」
ここが聖女の監視塔と呼ばれたていた事をジェイドが思い出す。
「はい。人間界を守る壁は私の力によるものです」
「君が…あの壁を?」
「はい」
そう言って微笑んだ顔はとても美しいものだったが肌の白さ…と言うか青さが儚さも孕んでいる風に見せてきた。
「あの壁がどうやって出来ていたかわからなかったがまさか君が作っていたなんて…」
「私はここ9年です。その前は別の聖女が壁を張っていました」
ジェイドが窓の向こうの壁を見ながら言うとカナリーも一緒になって壁を見る。
「そうか…壁のおかげで亜人共の進行が限定されているのは君のおかげなんだな。ありがとう」
ジェイドが微笑みながら感謝を伝えると言葉に詰まったカナリーが涙を流す。
「どうした!?」
「すみません!」
突然の土下座。
その姿にジェイドが困惑する。
「どうした?やめてくれ!そもそもなぜ君は俺にだけ会おうと?」
「勇者様…ジェイド様とお名前をお聞きしました。ジェイド様、4年間の過酷な責めの責任は全て私にあります!」
カナリーは突然4年間の事を持ち出してきた。
これにはジェイドも過敏に反応をしてしまう。
「…何?」
ジェイドの空気が一瞬で変わる。
ジェイドの中にはもしやカナリーが亜人たちに情報を売り飛ばした張本人なのかと言う疑念が生まれていた。
「あの壁に出来た穴は亜人界から流れてくる空気を逃す穴です。
塞いでしまうと、いずれ亜人界の空気が溜まってしまい…壁自体が崩壊します。
その為に開けた穴を通じて亜人がグリアを襲いジェイド様を…」
そう言ってカナリーは更に泣く。
それは仕方のない事なのではないか?
何故そこまでカナリーは自分を責めるのだ?
ジェイドは困惑から混乱に近い状況になっていた。
「え?それってカナリーは悪くないのではないか?」
「いえ。私の不徳の結果です」
首を大きく振って涙を流しながら自分を責めるカナリー。
「そんな事はない」
ジェイドは膝をついて同じ目線になって必死にカナリーを説得する。
「そんな…、あれだけの目に遭っても優しい言葉を投げかけてくれるなんてジェイド様は誠の勇者様です。やはり私の決断は間違っていなかった」
カナリーが涙の貯まる目で嬉しそうに微笑みながらジェイドを見る。
「ジェイド様、お顔を全てお見せいただけますか?」
「あ…ああ」
ジェイドは兜を脱いで素顔を晒す。
まだ午後になったばかりで問題なくカナリーに顔を見せられる。
「凛々しいお顔です」
そう言ってカナリーの顔が赤くなる。
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