第21話 聖女の監視塔。

「…つ…着いた」

「ジルツァーク様の無茶ぶりは久しぶりだったがキツい…」

「あなた達は走っただけでしょう?私は穴にポイズン・ウォールまで施したのよ?」


15分も歩けば到達する場所に塔が近づいてきた。

あれがジルツァークの言った聖女の監視塔だろう。

そしてここまでの行程は無茶苦茶でつい3人は泣き言を言ってしまう。


「馬鹿を言うな。俺は全身鎧だぞ?」

ジェイドがガシャガシャと音を立てて文句を言う。


「僕だって2人の分まで余計に荷物を持っている。十分に重い!」

セレストが負けじと自分の状況を伝える。


ここまでジルツァークの希望通り4日で到達した。

防人の街が穴に最も近いとは言えそこから穴までは歩けば1日かかる。


そして穴が見えた所でジェイドとセレストが周囲に注意しながらミリオンがポイズン・ウォールを使う。

本来は一人分の壁を穴の大きさに拡大するのは至難の技だが宝珠の力を借り受けたミリオンはそれをやり遂げた。穴を塞ぐ形で覆った壁により亜人の進軍は起きないだろう。

近づく亜人は間違いなく毒殺される。

破壊をしようにも近づけば毒、破壊も困難となれば亜人共も容易に手出しは出来ない。



「ほら、早く行くよ〜」

ポイズン・ウォールを発動させようが全身鎧だろうが荷物持ちであろうがお構いなしにジルツァークがふわふわと浮かびながらコロコロと笑う。


「ジル…辛いぞ?」

「え〜、時間が無いんだって〜。

それに困難を乗り越えた今の方が仲良くなった風に見えるよ?」


そう。

ブルアを経ってからのジェイドは明らかに変わっていた。

刺々しい雰囲気が和らいでいた。

それがセレスト達には届いていて嬉しい気持ちになる。


「仲良く?亜人共を殺すのに必要だからだろう?」

ジェイドが照れ臭そうにそう言うがとてもそうは見えない。


「それでジルツァーク様?ここには何の用事で?」

「ここは聖女の監視塔。聖女がジェイドを待っているの。

彼女はジェイドに謝りたいって言うし、今しかできない事をする。

そして私も義務を果たしたいの」


珍しくジルツァークが真面目な顔で言う。

ジェイドはジルツァークの「謝りたい」が気になっていた。


「ジル?謝罪とは?」

「行けばわかるから行こう」

そう言ってジルツァークが前を進む。

要領をえない話にジェイド達は困惑をするがここで躊躇する訳にもいかない。


塔に着くと下は小さな村になっていて、来客に気付いた村人達はジルツァークに挨拶をする。


「ジル?村人達に姿を…」

「うん。ここの人達は特別だからね。こっちだよ」

そう言われて村の真ん中に進むと塔の入り口にくる。


塔の入り口には筋肉質の男とリアンより若い女の子が居た。

女の子は黄色基調の神官服のようなものを着ている。


「カド!フラン!」

ジルツァークに名前を呼ばれた2人がジルツァークに会釈をする。



「ジルツァーク様…こちらが勇者様ですね」

「そうだよカド。カナリーは?」


「カナリーは、娘は…今は塔で祈りを捧げています」

「わかったよ」

カドと呼ばれた男が悲しげに塔を見るとフランと呼ばれた女の子はジェイド達を睨む。

視線に気づいたジェイド達が訝しむとやりとりに気づいたカドがフランに注意をする。


「やめないかフラン。今回の決断はカナリーの意思だ。それをジルツァーク様が了承をしてくださったのだぞ?」

「でもお姉ちゃんは何もしなければ1日でも長く、少しでも生きられた!」

フランは涙ながらに訴える。


「フラン!」

「それにこいつらが誓いを守って1つになれていればこんな事にはならなかったんだよ!」

フランがジェイド達を指さして更に涙ながらに訴える。

姉の命の事は分かりかねたが1つにならなかった事は勇者ワイトの話だろう。


「止めるんだ!」

カドに怒られたフランが泣きながら走り去る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る