第19話 勇者ワイトの伝説。

「ミリオン、君の所と差異があれば教えてくれ」

「わかったわ」


そして勇者ワイトの伝説が話された。

およそ100年前。

亜人共の猛攻に苦しんだ人間達の為にジルツァークが女神の力で1人の勇者を生み出した。

その勇者の名はワイト。

聖剣を持ち、聖鎧に身を包み宝珠の力を使いモビトゥーイが生み出した万の亜人を倒した。

戦いは熾烈で亜人五将、火のサシュ、水のソシオ、闇のスゥ、風のセウソイ、地のエムソーとの死闘。それらを打ち倒して遂に亜人王の元に到達する。


いくら聖剣に勇者の剣技、聖鎧に体の不死能力、宝珠に大魔法があったとしても亜人達との戦いは果てしなかった。

だが亜人王を討ち倒したワイトは最後の戦いに出る。

それは争いと残虐の女神、モビトゥーイを倒す戦い。死闘の果てに勇者ワイトはモビトゥーイを退けた。だがそれは相打ちでワイトはモビトゥーイの使った分身の魔法で3人のワイトに変えさせられる。


「それが俺達の祖。ブルアのワイト、レドアのワイト、グリアのワイトだ」

「そこはレドアの言い伝えも同じだわ」


「ブルアは?」

「同じだ」


そしてモビトゥーイは撃退しただけで再起がある。

それはジルツァークの見立てで100年後。


その為に勇者の技や魔法は全て100年先まで遺す必要があった。

だがそれから20年、事態が急変する。


拠点となる城を構え、妻をめとり、子を授かったワイト。

そんな日々の中、各王子や王女に異変が起きる。

父ワイトの持っていた勇者の力が子に受け継がれた。


一子相伝。

受け継ぐ相手に規則性はなくグリアで言えば初代の力を受け継いだのは息子だったがその力を受け継いだのは息子の姉、その人の子だった。


「では私の魔法は…」

「ミリオンの子に行く可能性もあるがミリオンにきょうだいが居れば、きょうだいの子…姪や甥に行く可能性もある」


「レドアはそれを知らない…。だからお父様もお婆様も子を1人しか産んでこなかった…」

「おいおい、本当か?危ないなそれ…」

ジェイドが万一の話を聞いて驚く。


「ブルアにはその伝承があった。だから私は子をキチンと授かった」

「はい。だから私はジェイド様がミリオン様か私と子を授かれば勇者の誓いを果たせますねと昨晩お話をさせていただきました」


勇者の誓い。

かつて3人に分かれたワイトはジルツァークに元に戻る方法を確認した。

ワイト達は全て男なので不可能だが子を授かり、その子が男女に分かれた時には子供同士で結ばれる事で三つが二つに…そして二つが一つになる事を提案された。


100年目までに勇者を一つに。

ワイト達はそう誓った。



「だがそうはならなかった…」

ジェイドが自身の横に座るセレスト達を一度見て前を向く。


「グリアではブルアが亜人を倒すことより人間を支配しようと企み、レドアを引き込んで覇権を握ろうとしたと言い伝えられている」

「何?ブルアではレドアがグリアをと言い伝えられている」

「レドアではグリアがブルアをとなって…」

ここで初めて情報が大きく食い違っていた。


「何だこれは?何処で情報が錯綜したんだ?」

これには全員が驚いていた。



「そして友好と信頼の証として聖剣がブルアからグリアに、聖鎧がグリアからレドアに、宝珠がレドアからブルアに預けられた」


その後は95年目までは平和だった。

グリア王は80年を過ぎても初代ワイトの誓いが果たせない以上、それぞれの力を授かった3人で亜人とモビトゥーイを退ける必要があったことから力を受け継いだジェイドに座学と戦い方を教えた。


「俺が父さんから仕込まれ始めたのは10年も前のことだ。

「ブルアとレドアの盾として2人を守り必ず亜人に勝て」

そう教わりました」


「ジェイド…」

「勝てるさ僕たちなら!3人で力を合わせよう!」

「そうだな。よろしく頼む」

ジェイドの声にセレストとミリオンが手を出して3人で手を合わせる。


「ブルア王、私達はこれから宝珠を頂いたらグリアとレドアに行き、穴に赴こうと思います」


「わかった。だが出発は明日朝にしてはどうだろうか?

無論日没のこともあるがリアンの礼をさせてほしい」


「ですが…」

「ジェイド、大丈夫。僕たちならやれる」

「そうよ。まずは疲れた身体を癒して?」

2人に言われたジェイドは大人しく従うことにした。


「とりあえずジェイドの事は亜人の呪いで夜になると見た目が変わる事にした。

そうすれば人間の結束は揺るがないだろう?」

ブルア王がひとまずの処置として言う。


「ご配慮ありがとうございます」

「もしも夜行を考えているのなら全身鎧を手配しようと思う。それに身を包めば野宿の必要も減るのでは無いか?」


「…ありがとうございます」

「ではすぐに手配しよう」

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