第13話 傷だらけの理由。
セレストは人払いをすると客間にジェイドを迎え入れた。
本来ならブルア王や王妃、リアンもお礼を告げたいと申し出たのだがジェイドの頼みでそれは延期となった。
「…ジェイド…、治療をしないか?」
「問題ない。命に別状はない」
無感情といった感じで返事をするジェイド。
「だがその身体は…」
「そうよ!明らかに怪我だわ」
怪我を問題ないと言われて「わかりました。そうですか」と言える訳もなく2人が心配して食い下がる。
「いや、だから平気だ。今さっき刺された箇所も問題ない」
そうは言ったが胸の傷口は塞がっているものの赤黒い痕になっていた。
「傷が消えない?」
ミリオンが胸の傷を見て異変に気付く。
日中であれば傷は瞬時に消え去っていたのだ。
「まさか、体の勇者の不死能力はジルツァーク様が近くに居ないと効果を発揮出来ないのか!?」
セレストが何かに気づいた顔で聞く。
ジェイドが少し笑って「半分…でもないな。ほんの少しだけ正解だ」と言う。
「じゃあ何で…昼間はあんなに傷一つない身体だったのに。今は全身傷だらけ…」
ミリオンが震える声でジェイドに質問をする。
「これが人の闇だ」
「人の闇?」
「ああ、ジルツァーク…ジルが99年前、かの勇者ワイトに授けた、剣、魔、体の力…、その中で体の力にはジルも気付かなかった…ある欠点があったんだ」
そう言ってジェイドが遠い目をしながら暖炉の火を眺めて話し始めた。
「体の力。
死ぬ事なく亜人共と戦い続ける事が出来るようにジルが授けた力。
それは死ねなくなる能力だ。2人も見ただろう?獄長に殴られても即時に身体が修復される。
都合も良く出来ていて身につけた装備品なんかは攻撃では壊れなくなる。
さっきの火事みたいに無差別攻撃には弱いが奴隷の時に着ていた服が無事だったのはその恩恵があったから。
勇者ワイトもその力で99年前の戦いを生き抜いた。無論剣技と魔法が無ければ亜人共に対して勝ち目はなかった」
2人は話を聞きながらここ数日のジェイドを思い出していた。
今日の昼、確かにスライムに溶かされた服も身体と一緒に再生していた。
「…勇者ワイトの時には明らかにならなかったジルの力の欠点が俺の時に明らかになった」
「欠点?」
「ジルツァーク様の御力に欠点なんて…」
2人は無欠だと思った女神の力に欠点と言うものが存在している事が信じられずにジェイドに聞き返す。
「あったんだよ。それがこの身体だ。
消える事のない傷にまみれたこの身体がジルの力に欠点があった事を証明した。
ジルも想定外の出来事に力が対応出来なかった。それだけだ」
「それだけって…、何があったと言うんだ?言ってくれ!」
想定外…女神が想定できない事態とは何なのか?
そう思ってセレストがジェイドに質問を投げかける。
「体の力は亜人や魔物からの攻撃には瞬時に修復をする。
傷痕すら残さずにな…。
だがこの身体は傷だらけだ。
その意味がわかるな?」
話ながらジェイドの顔が曇るのがわかる。
セレストとミリオンはジェイドの言葉を聞きながら恐ろしい考えが脳内に産まれていたが口にしたくなかった。
だがその表情をジェイドは見逃さない。
「わかった顔だな。言えって」
「まさか…、人間からの攻撃には傷が残るのか?」
「でも、それなら私のアトミック・ショックウェイブの傷だって…」
「ようやく70点だな。
そう。ジルの力は勇者ワイトが魔物や亜人共との戦いで傷つかない為の力で人間の攻撃は想定外だった。
だが今からその力を付与するのはモビトゥーイに干渉値を与える事になるとジルは言っていたし、今更その力が付与されてもこの傷は消えない。
この傷はジルの活動範囲と同じ、日の出から日の入りまでは消えるが日没を迎えるとこうして浮かび上がってくる」
そこまで話した所でセレストとミリオンの顔は真っ青になっていた。
ミリオンは震えていて立っているのも辛そうだ。
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