第12話 傷だらけの勇者。

窓を蹴破って脱出路を確保したジェイドが燃え盛る火の中でリアンを見る。

リアンはジェイドの言いつけ通りに布団に身をくるんで待っていた。

ジェイドはリアンを抱きかかえると優しい声でリアンを安心させる。


「怖くない。怖かったら目を瞑っているんだ。後はしっかりとしがみつけ」

「はい」


リアンを抱きしめたジェイドが背中から飛び出す。

外には先ほどけ破った窓ガラスや石などもあり背中から落ちるのは得策ではないが下手に受け身を取ればリアンが怪我をする恐れがある。

ジェイドは死なない身体を利用してリアンを守る。


飛び降りてすぐに体制を立て直して館から離れたジェイドが胸の中にいるリアンに声をかける。

「何処も怪我をしていないな?」

「はい。ありがとうございます!」


「リアン!」

「ジェイド!」

そこに駆け寄ってくるセレストとミリオン。

セレストの顔は必死そのものだ。


「ほら、兄さんを安心させてやれ」

「はい。兄様!」


セレストが本気で安堵した顔でリアンを抱きしめる。その目には涙が浮かんでいた。

火を背にしたジェイドの表情はミリオンたちからは影になっていて見て取れないがとても喜んでいるのがわかる。


「ミリオン、犯人は?」

「まだ居ないの…」

ミリオンが訝しげに言う。


「何!?くそっ」

そう言ってジェイドが飛び出す。


それは咄嗟の勘でしかないが勘は見事に的中していた。

燃え広がる草むらから現れた男がナイフを持ってリアンに迫っていた。


「家族を奪われる苦しみを味わえ!」

そう言いながらナイフをリアンに突き立てようとしていた。


セレストは咄嗟にナイフに身体を向けてリアンを庇う。

だが先程同様にナイフを身体で受け止めたのはジェイドでジェイドの身体にナイフは突き刺さる。

ジェイドの外套と上着は火事の火で焼け落ちていて素肌にナイフが突き刺さっていた。


「きゃぁぁぁぁっ」

ジェイドを知らないリアンは胸にナイフが突き立てられたことに顔を覆い悲鳴を上げる。


「大丈夫だ!俺は体の勇者だ。この程度では死なない!」

ジェイドがリアンに向かって声をかける。


「くそっ、館に誰も入れないように出入り口に向かって念入りに油を撒いたのに不死身の化け物め!」

ジェイドにナイフを突き立てた男が悪態をつきジェイドが「化け物で悪かったな」と言って両肩を棍棒でへし折った。

激痛に蹲る男に兵士が群がりすぐに取り押さえる。


男の話が本当ならばこれで犯人は捕まった。

後は館の消火が済めば解決だ。

そう思ってセレストがジェイドに感謝を伝える。


「ジェイド、何から何まで助かっ…」

「ジェイド?」


その時…、ミリオンとセレストは見てしまった。

火に焼かれ落ちた服と外套が無くなったジェイドの顔と身体を…。


「見ないでくれ…」

「ジェイド、でも!」


「セレスト!見るな!」

そう叫んだジェイドの身体は痛々しいを通り越して見ていられない程にボロボロになっていた。

全身を埋め尽くすように真っ黒く広がる痣。

至る所に見えるちぎれ繋がった皮膚。

火傷によって腫れた部分もある。



「だがお前!さっきまでは何もなかったじゃないか!」

「そうよ!この数時間に何かあったの!?」

セレストとミリオンが必死になってジェイドに問いかける。


「わかった…、誰も来れない部屋を用意してくれ…。そこで話す。

とりあえずセレストの妹には目を瞑っていて貰えないか?

幼い少女には刺激が強すぎる。

こんな事で怖がらせたく無いんだ」

そう言ったジェイドの頬には涙が伝っていた。

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