第2話 不死身の勇者。

「え!?」

獄長を殺そうと言うジェイドの提案でミリオンの顔は驚きに歪んでいた。

子を持つ親ならば慈悲の心で助ければ改心すると思ったのだろう。

そしてその言葉を言ったのは自分と同じ勇者であるジェイドだった事がショックでならなかった。


「なんだ?子を作れると言うことは脅威が増えると言うことだぞ?生かしておけばまた子を作る。その子が将来強敵になる可能性もある。

それとも命を助けたら改心するとかそんな夢みたいな楽しい事を考えていないだろうな?

ほら、見てみろよ」

ジェイドがそう言いながら獄長を指さす。


「え?」

ジェイドの顔を見ていたミリオンとセレストが獄長を見ると手には鋼鉄の棍棒を持ってミリオンに襲いかかってきていた。


「人間が!人間如きがぁぁぁっ!」

反応の遅れたミリオンとセレストは動けずにいたがジェイドは備えていた。


悲鳴を上げるミリオンを突き飛ばして獄長の前に飛び出すと両腕を前に出して棍棒を受け止める。


亜人の腕力と鋼鉄の棍棒の一撃。

その組み合わせをたかだか人間が腕で受け止められる道理はない。

形容し難い鈍い音を立ててジェイドの腕と頭がひしゃげる。


即死


そう見えた。

それ以外に見えなかった。


だが慌てたのはミリオンとセレストだけで獄長は即座にジェイドの身体を蹴り飛ばす。


「クソガァ!不死身が邪魔をするな!」

そう言ってミリオンに向かう。


突き飛ばされたミリオンは慌てて体制を整えて魔法を使おうと手を前に出すが目の前で死んだジェイドに意識が向かって上手く集中する事が出来ない。

セレストも剣を抜いては居たがとても剣が届く距離ではない。



「おい…、人の事を不死身と知って背を向けるなんてバカかお前は?」


それはジェイドだった。

獄長の頭を後ろから掴んだジェイドは物凄い力で獄長を押さえ込むとそのまま壁際に投げ飛ばす。


ジェイドの身体には血が付いていたが骨の折れた感じはない。先ほどの惨劇を知らない人が見れば無傷に見える。

逆に背中から壁に当たった獄長は突然の痛みに起き上がれずに咳込んでいる。


ジェイドは一歩ずつ前に進むと獄長の持っていた鋼鉄の棍棒を拾う。


「貰うぜ?」と言いながら獄長の頭に強烈な一撃を与える。


「ギャアッ!!」

ゴツっと言う音と同時に痛みでのたうち回る獄長。

頭からは血が流れている。



「おいおい、一撃でこれかよ?

お前は毎日俺の事を痛ぶってくれたよな?

何回も何回も何回もこうして殴ってくれたよな?」


ジェイドは話しながら連続して獄長を殴る。

「し…仕事…仕事で…ぶべっ」

「ほら、しっかり喋れよ?

毎日「許しを乞え、命乞いをしろ、悲鳴をあげてみせろ」と言って切って殴って捻ってきたのはお前だろ?

「命乞いはしっかり喋れ」だろ?」


「し…仕事でやっで…まじだ…、許じで…ぐださ…」

「断る!」


ジェイドは断ると言うと同時に更に強烈な一撃を獄長に叩き込む。

獄長は気絶をしただけで死ななかったので身体がビクビクと痙攣をしている。



「誰が亜人を許すか」

ジェイドが憎しみに歪んだ目で獄長を睨むとそう言って棚に向かう。


棚には「奴隷の首輪」とその鍵が置いてある。

ジェイドはそれを使って首輪と足枷を外す。


「あの…助けてくださってありがとうございます」

セレストに助け起こされたミリオンがジェイドにお礼を言う。


「気にしないでいい。だが亜人共に気を許すな。奴らは人語を話す魔物だ。油断も隙もない。

気を抜けば殺されると思うんだ」


「はい…」

ミリオンは自分の不始末を恥じて意気消沈してしまう。


「だが!今の戦いはどうかと思う!一度殴った後は獄長に戦意は無かった!」

「セレスト…」

セレストが正義感でジェイドを注意する。そんなジェイドをミリオンが頼もしそうな目で見る。



「お前、本気か?」

「何?」

ジェイドが呆れながらセレストに聞く。


「そんな考えで国や家族が守れるのか?」

「何?それは穴から亜人共の世界に行って亜人王とモビトゥーイを倒せば!」


「はぁ…?お前本気か?

その間にも亜人共は攻めてくる。

その考えは国も家族も失うぞ?

ブルアを俺のグリアと同じにしたいのか?」

「…それは…」

ジェイドの圧に何も言えなくなるセレスト。

眩しい笑顔の整った顔が曇る。


「よく考えろ。それによくない流れだな。獄長が時間稼ぎをしていたようだ。近隣の亜人共め、街中の亜人共に援軍を呼んだんだろう。亜人共が戦闘奴隷の人間まで連れてやってきたぞ」

ジェイドの言葉にセレストが慌てて窓の外を見る。


「本当だ!?」

セレストが慌てた顔で振り返るとジェイド達を見る。


「ジル!」

「なーに?」

ジェイドの声でジルツァークが現れる。


「見張っておけと言っただろう?」

「うん。でもジェイドなら簡単でしょ?それにセレストとミリオンが居るから余裕だよ」


「まあそうだな。セレスト。この先の予定は?」

ジェイドはとりあえず棍棒以外で武器になりそうな物を棚から探しがならセレストに聞く。


「え?今日はジェイドを助けたら急いでブルアの城に戻って体制を整える…」

「了解だ。それではここの作戦指揮は俺が取る。異論は認めない」

矢継ぎ早にジェイドが口を開く。


「え?」

「そんな?」

突然仕切られた2人は面白くなさもあって驚く。

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