東の章
「い、痛い、痛いぃぃぃ」
ぎいぎいとうめき声を上げながら、足を撃たれた悟朗が床によだれと血溜まりを塗りつけている。
苦い硝煙の向こう側、両手で銃を握りしめたましろが声を張り上げる。
「北悟朗、おまえ面倒くさいよ。もうストレートに聞くわ。つららから騙し取ったダイアモンドのティアラ、どこに隠した! 言え!」
あーあ。
と、場にまったくそぐわない、緩んだ声を東が漏らした。
「やっぱり撃っちゃいましたか、ましろさん。私の銃に興味津々で、大金ちらつかせて接近してきた時点から、予想はしていた展開ですが……」
興奮しているましろの耳には届かない。
「片目の不自由なあなたが、よくもまあ一発で」
「うるさい! 北悟朗、早く話せ、話せば見逃す。話しなさいよ!」
ぶるぶると銃口を向けたまま、ましろは悟朗ににじり寄る。
血を垂らして這いずりまわった悟朗も吼える。
「待て、撃つな! 話すから、撃つな! いくら刑事だって、殺人はダメだろ? ……頼むよ!!!!」
東がそっとしゃがみ込む。
「すいませんね、北くん。実は我々、『刑事ではない』んです。彼女は、ほうぼう大金を巻き上げながら、『結婚詐欺の被害に遭った女』が来るのを待っていた、ただのニセ霊能力者…つまり……」
「もういい、そんなことは、どうだっていい! なぁ、助けてくれ。どうすれば俺は助かる? ティアラの在り処を言えばいいのか? そうすれば、助かる……のか?」
「ああそうよ! さっさと吐け! つららの物はわたしの物。その昔、つららがわたしの左目をだめにしてから、つららの全てはわたしの物って決まってるんだ! 返せ、ティアラはどこだ、『わたしの』ティアラはどこなんだ」
「それは……」
吾郎がなにかを言いかけたとき。
東がふわりと無駄なく動いた。
躊躇なくましろから銃を奪い返し、そして。
ぱん、と乾いた音がした。
悟朗は情けない顔のまま――絶命した。
「なぜ……東ぁぁ、なぜ殺したぁぁ!」
ましろは憎悪に猛り、叫んだ。
しかし東は動じない。硝煙をたなびかせたまま、もう一人に銃口を突き付ける。
ごくり、と女の喉から声にならない音が漏れる。
「幼馴染の復讐だなんて、いまどき美しい話だなあと協力したのに、まるっきり嘘だったんですね。結局ただのカネ目当てとはガッカリです。それも」
引き金。
ましろの喉笛がぐしゃぐしゃに裂け、びるびると血の滝が開いた。
「ダイアのティアラ? そんな安いもののためだとは。……死んで当然です」
--西の章へつづく
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