オミとショコの旅

風月那夜

第1話



薄茶のマントに身を包んだ旅人のオミは白い馬のシンに乗り、緑の海に延びる舗装もされていない一本の長い道を進んでいた。


「臣、次の街までまだ掛かるだろうか?」

「ご主人様、あと2日は掛かるかと」


ぬるい風が吹き、豊かな緑の草原を西から東に揺らす。


「そうか。……そろそろ休憩にしよう」

「そうですね、ちょうどあそこに小川があるようです」


茶色い一本の道からゆっくり右にそれ、臣は小川へ向かう。


その時、色とりどりの小鳥が楽しそうにさえずり、その可憐な歌声を届けた。


――みんなで歌を歌いましょう〜楽しい歌を歌いましょう〜手と手を取れば楽しくて〜心があたたかくなるのよ〜♪♪♪


「やあ、楽しそうだね小鳥さん」

「ありがとう。とても楽しいのよ! だって、楽しい"心"が落ちていたの」

「そう、あっちに落ちてたの!」

「みんなで拾ったの!」


赤い鳥、青い鳥、黄色の鳥がさえずる。


「それは誰の"心"なんだい?」

「知らない。だって落ちてたんだもん」

「でも持ち主は今頃困っているかもしれませんよ?」

「そうね。……それじゃ持ち主を探しましょう!」

「そうだな、それがいい」


オミと臣は楽しそうに歌を歌う小鳥たちと別れ、小川を目指した。


「ご主人様」

「なんだ?」

「あちらに誰かいるようです」


臣の言葉に、オミは目を細めて遠くを見やる。


「ん? あれは子供か?」

「そのようですね、声を掛けてみますか?」

「ああ。側に行こう」


臣は速度を落としゆっくり進む。だいぶ近付いた所でオミは手綱を引いて地面にさっと降りると、おおい、と小川のへりにいる子供へと声を掛けた。


「何をしてるんだ?」


オミに声を掛けられた子供は覇気のない土気色の顔をぬぼーっと上げる。髪は短くザンバラに乱れ、汚れたボロ切れを纏っていた。そしてオミを確認するやすぐに視線は下へと落ち、同時に目から雫がぽたりと落ちる。


「おいお前、何故泣いている?」


その問い掛けに返る声はなく、代わりに臣が、ご主人様、と言う。


「レディに『お前』などと呼ぶのはよろしくないかと」

「なんだ、女なのか? それは失礼した。して少女、名は何と言う?」

「……コ」

「ん?」


ぼそりと呟く少女の言葉が聞き取れず、聞き返すと少女は小川に吐き捨てるように、ショコ、と言った。


「私はオミ。こっちは臣。さてショコ、ここで一人、何をしている?」


ショコは聞いていたのか聞いていなかったのか大きく息を吐き出しただけで問いには答えない。そしてまた目から雫をこぼす。


「ご主人様。どうやらショコには心がなくなっているようです。ただ身体だけは心がなくなった事を嘆いて涙を流しているようですが、ショコはそれを何とも感じていないようです」

「そうなのか?」

「いいの、心なんてなくて。疲れちゃったからいらないの」

「そんな……、そんな事はない。心は大切だ。そうだ、先程の小鳥たちが楽しい"心"を持っていたぞ。小鳥の歌を歌えば小鳥たちにまた会えるかもしれない」

「ことりのうた?」

「そうだ、楽しい歌だ。一緒に歌おう」


――みんなで歌を歌いましょう〜楽しい歌を歌いましょう〜手と手を取れば楽しくて〜心があたたかくなるのよ〜♪♪♪




オミの清く響く歌声を聞き付け、小鳥たちがさえずりながら戻って来る。


「あら? さっきの旅人さんね?」

「ああ、持ち主を見つけたんだ。その"心"をショコに返してくれるか?」

「もちろんよ! さあどうぞ!」


小鳥が差し出した"心"はショコの胸にすぅーっと戻って行った。


「さあショコも一緒に歌いましょう! 楽しいわよ!」


小鳥の軽やかな歌声に続いてショコもたどたどしく歌うと、ショコの胸にゆっくり楽しいという感情が蘇ってきた。それは、わくわくと浮き立つような感覚。


「歌って、……こんなに楽しいのね」

「そうよ、楽しいのよ!」

「ほら、もっとたくさん歌いましょ!」


黄色の鳥がもっと、と急かすようにショコの袖をくちばしで引っ張ると、ショコの袖はビリっと音を立てて破れてしまった。


「あっ! ごめんね」


黄色の鳥が謝るものの、ショコからは何の反応も返らないので、オミが首を傾げる。


「ショコ、袖が破れて苛立たしいとか、悲しいとか、思わないのか?」


それにショコは首を振る。


「何も……。何も感じない」

「ご主人様。ショコは怒りの"心"も、悲しみの"心"もどこかに落としたのかもしれませんね」

「それでは、探そうではないか」

「はい、そうしましょう」


こうして、オミと臣とショコの"心"を探す旅が始まった。



晴れていた空はどんより曇ってきたかと思えば、あっという間に黒雲に覆われてしまった。

ショコの頬に雨粒がぽつりと落ちる。


「雨?」

「えーんえん……」


するとどこからか泣き声が聞こえてくる。


「誰だ? 泣いているのは?」


オミの問い掛けに答える声は、ここだよ、と上から落ちてくる。

見上げたオミと臣とショコは自身の顔にしょっぱい雨を浴びるように受けた。


「僕は雲。だけど悲しいんだ。とてもとても悲しいんだ。雨なんてみんな嫌いだろう? 僕は嫌われ者なんだ」


悲しい顔をする雲からぼたぼたと涙が降る。


「このままでは大雨になる。ひとまずあの林まで走るぞ」


オミは言うやいなやショコを抱えて臣の背に飛び乗った。薄茶のマントを広げ、雨を凌ぐようにショコを覆う。


林に辿り着いた頃には雲の涙は木々や葉をバタバタと叩いていた。


「みんなごめんね。涙が止まらないんだ」


謝る雲に白馬の臣が問いかける。


「雲さん、もしかしてどこかで悲しい”心”を拾いませんでしたか?」

「悲しい”心”? ああ僕が拾ったよ。とても寂しそうだったから僕の胸で温めてあげてるよ。僕は嫌われ者だからね、独りでいるのは寂しかったんだ」

「それはそれはありがとうございます。その”心”はこちらのショコが落としたものなのです。どうか返していただけますか?」

「独りぼっちの僕から奪うの?」

「そんなつもりはありません」


それまで黙っていたオミが雲に両手を伸ばす。


「雲、お前は自分のことを嫌われ者だと言うが、雨が少しも降らなければ作物は実らぬ。それにここにいる木々もたまには雨を受けねば枯れ果てるだろう」

「そうよ雲さん。あなたがくれる雨は優しい恵みの雨なのよ。私たちはたまに来てくれるあなたを楽しみに待っているのよ。寂しいのならここに来た時に私たちと一緒におしゃべりをしたらいいわ!」


その声に、それがいいわ、と同意の声がさわさわと波立つ。


「本当にいいの?」

「ええ、もちろんよ」


木々の微笑みに雲が抱えていた悲しみの”心”がほろりと落ち、ショコの胸にすーっと戻る。


「……悲しい。独りは悲しいね、寂しいね」


ショコはぽつりとそう言うと雲から引き継ぐように頬に小さな雨を降らせた。



しかしなかなか泣き止まない雲にオミは首を傾げる。


「まだ悲しいのか?」

「ううん、違うの。嬉しいんだよ。嬉しくて嬉しくて嬉し涙が止まらないんだ。ごめんね、もう少しだけ泣いていてもいいかな?」

「そうか。……それなら構わない。だが私たちは先に進まなければならない」

「うん、ありがとう。また君たちと会えるといいな」


泣きながら笑う雲に別れを告げ、オミたちは旅へと戻る。


「悲しくても泣くし、嬉しくても泣く?」


誰にともなく呟いたショコの声に臣が、そうですね、と答える。


「落とした心を取り戻せばショコにも分かるかもしれません」

「ふーん、そっか……」


取り戻したいような、取り戻したくないような、そんな気持ちを抱えるショコの足元を何かが横切っていく。


「わっ」

「危ないじゃないの! そんな大きな体で踏まれちゃひとたまりもないわよ! ちゃんと前を見て歩きなさい! それから、どうしてそんなにびっしゃこなのよ! 濡れネズミじゃない! 嫌だわ!」


プリプリと怒るのは、ふりふりのエプロンを付けた小さな小さな鼠色のネズミだった。


「マダム、申し訳ございません」

「本当に仕方がないわね! ウチにいらっしゃい! 服くらい乾かしてあげるから!」


プリプリと怒りながらネズミのマダムは可愛らしいお尻をふりふりと揺らして臣の前を歩く。


しかし、マダムの家に着いた所でようやく皆が首を傾げた。


「あら、嫌だわ! 図体ばっかり大きいから家の中に入れないじゃないの!」


マダムの家は木のウロだった。

木の中――うろとなっている所に生活スペースがあるのだが、そこにオミも臣も、ショコさえも入る事は出来ない。


どうするのよ、とプリプリ怒るマダムの遥か上空では涙の落ち着いた雲がゆっくりと移動し、太陽が顔を出す。


「あら、ちょうど良い所に来たわね! 遅いのよ、もうっ! この子たちを早く乾かしてもらえるかしら!」


怒りながら注文するマダムに、太陽は嫌な顔一つせず暖かな陽射しを燦燦と降り注ぐ。

お陰でオミも臣もショコも服がすぐに乾き風邪をひく事もなかった。


「太陽よ、感謝する。マダムにも礼を」


オミが恭しく頭を下げるのを見て、ショコも慌てて頭を下げた。


「ありがとう」

「いいのよ、それよりっ! お腹空いてるでしょ! 待ちなさい! 今すぐに支度してあげるんたから待ちなさいよっ!」


しかしマダムは未だに怒りながらキッチンに向かうと今度は、ないわよっ! と叫んでいた。





「何もないわっ! 芋しかないわっ!」


そう叫ぶマダムに臣が「美味しいですよね、芋」と優しく声を掛ける。


「小ふき芋も、煮っころがしも、ポテトサラダも、コロッケも、ガレットも、フライドポテトも、芋は何にでもなれるから飽きませんよね」

「そんなの飽きるわよ! 一年で飽きるわよ! でもそんなに言うなら仕方ないから作ってあげるわよっ! 待ってなさい!」


そのやり取りにショコは笑う。


「楽しいか?」


オミが小声でショコに問うと、ショコは小さく頷いた。


「そうか。それは良かった。だがあのマダム少し怒り過ぎだろう。……まさか!?」

「ご主人様。私もそのまさかだと思います」


オミと臣の視線はショコに向く。と、ショコはその視線を訝しんで眉間を寄せた。



数多の芋料理に舌鼓を打ち、食後のコーヒーまでいただく。もちろんコーヒーの飲めないショコにはハチミツ入りのホットミルクだ。


「マダム、お尋ねしたい事がございます」

「何なのよっ! 早く言いなさいっ!」


お腹がいっぱいになってもまだプリプリと怒るマダムに臣は怒りの"心"が落ちてなかったかを聞いた。


「あったわよ、落ちてたわよ! 私にぴったりの大きさだったから私がもらったのよ! だけど本当の持ち主がいるなら返すわよ! 返せばいいんでしょっ!」


そう言うとマダムはふりふりのエプロンのポケットから小さな小さな"心"を出した。


「ほら、ここにあるわよ!」


それを受け取るショコの胸に小さな怒りの"心"がすーっと戻る。


「ショコ?」

「何か怒りの感情が沸き起こるかい?」

「…………」


それにショコはしばし沈黙するとホットミルクに視線を落とした。


「ちょっと熱過ぎて、飲めなかった」

「……ははっ、なんだそれは」

「ショコの怒りの"心"は小さかったですからね」

「うん。……でも今はちょうど良い温度。ありがとうマダム」

「熱かったなら早く言ってくれれば良かったのよ。今度はちょうど良い温度で淹れてあげるからまた来なさいね」


微笑むマダムはもうプリプリと怒ってはいなかった。


その日はそのままマダムの家の横にテントを張り、一晩を過ごす。


あくる朝、旅に出発すると言うオミにマダムは、ちょっと待ってね、と声を掛ける。


「余り物だけど、フライドポテトを包んでいるからあとでお腹空いたら皆で食べなさいね」


そう言うとマダムはオミに包みを渡した。


「礼を言う、マダム」

「ありがとう」

「いいえ、良いのよ。いつでも遊びに来なさいね。今度は芋じゃないものも用意しておくから」



ネズミのマダムと別れた一行は次の街に向かっていた。


途中、果実のなる樹から桃色の実を貰う。


「オミ、上手だね」


ナイフで桃色の実を丁寧に切り分けるオミの手元をショコは興味深そうに見つめていた。


「ご主人様のナイフ遣いは一流なんですよ。ある時は獣をもひと刺しで仕留めてしまったほどの腕前です」

「へえ〜」


獣を仕留める姿を上手く想像出来ないショコは首を傾げながら曖昧に相槌をうつ。


「さあ、食べるといい。上手いぞ」


オミは切り分けた実をショコの手に乗せる。


ショコは一度それをじっと見つめて、それから口の中に放り込んだ。


「ん、おいし」

「そうだろう。上手いだろう」


臣にもひと切れやり、オミもひと切れ食べると残りはショコに食べさせた。


「さて、次の街までもう少しだ」

「本当に行くの?」

「ああ。……ショコは嫌なのか?」

「…………」


その問いに、黙り込んでしまうショコを見て、オミも臣も首をひねる。


「ショコが落とした心もあとは、喜びの"心"だけだ。次の街に行けばまた手がかりがあるかもしれないだろう?」

「うん……」


曖昧な返事にオミは肩を上げる。


「旅を急いでいる訳ではありませんから、ゆっくりと次の街を目指しましょう」


そう言う臣の背中にショコを乗せ、一行はゆったりと気持ちの良い風が吹く緑の海を歩いた。



あと半日も進めば次の街に着くという所で一行は休憩を取っていた。


「ではマダムから貰ったフライドポテトをいただこう」

「いただきます」


揚げたてはカリッとしていたポテトもすでにしんなりとしている。


「マダムがケチャップも用意してくれてるぞ」


オミはショコに、使え、と手渡す。

ショコは受け取ったものの使おうとしない。


「どうした? 付けないのか?」

「……いらない。ケチャップきらい」

「そうか、嫌いなのか。気が合うな、私も嫌いだ」

「同じだね」

「同じだな」


無表情でそう言うと二人でフライドポテトに手を伸ばし、もくもくと口に運んだ。


食べ切るとオミは片付けて立ち上がる。


「ショコ、ケチャップはここに入れろ」


オミは自身の持つ荷物を指差すが、それにショコは首を振った。


「私が持っててあげる。オミもキライなんでしょ。いいよ、持っててあげるから」


なんだその言い方は、とオミは鼻で笑いながら、それならショコに任せる、と優しく言った。それにショコは頼もしげにしっかりと一つ頷いて返す。


「では出発しましょうか、ご主人様」

「ああ、行こう。次の街に」


足取りの重いショコを臣の背に乗せ、一行はゆっくりと歩き出した。




次の街に入るには大きくて長い橋を渡らなければならない。


「やあ、旅人さん。こんにちは」


一行に声を掛けたのは大きな橋だった。


「こんにちは、橋さん」

「ああ、旅人さんが来てくれるなんて実にいつぶりだろか? ああ嬉しい。とても喜ばしい事だ!」

「この街には滅多に旅人は来ないのですか?」

「ああ、そうなのだ。……そう、実に昨日振りだよ。来てくれてありがとう。ありがとう! ああ、何て嬉しいんだろうか!」


喜ばしい、と何度も何度も口にする橋さんを見てオミと臣は目を合わせて頷いた。


「橋さん、お尋ねしますがもしかして喜びの"心"が落ちてはいませんでしたか?」

「ああ、落ちていたよ。とても可愛い少女が落としたのだ。だから失くしてしまわないように私が拾ったのだよ」

「その少女とは、もしかして、こちらのショコではないですか?」


臣はオミの後ろに隠れるショコをつついて橋の前に立たせた。


「おお! その少女だよ。待っていたのだ、ここに帰って来るのを。よく帰って来たね、さあどうぞ、君の"心"だ」

「あり、がと」


たどたどしく受け取るショコを見てオミは眉を寄せる。


「どうしたショコ?」

「ううん、何でもない」


首を振ったショコは心を胸の中にすーっと戻すと、オミと臣を見た。


「ありがとう。これで私の"心"は全部。オミと臣と一緒に旅が出来て楽しかった。ありがとう、楽しかった……。私はここまで。ここは私の街……」


ショコの目から哀しみの涙が溢れる。


「そうか、ここがショコの街なのか。良かったな、ちょうど全ての"心"が揃って。では橋を渡ろうか」


オミと臣の後ろを、ショコは涙を橋に染み込ませながら街へと入って行った。





「ようこそ、旅人さん」


オミと臣が街人から歓迎されているその後ろで、ショコの耳には怒声が響いていた。


「お前ドコに行ってたんだい! 逃げたって無駄だよ! さっさと持ち場に戻りな! 働かなかった日の分まで取り戻さないと許さないからねっ!」


目が血走ったふくよかな女性がショコの頬を平手打ちし、倒れたショコの髪を引っ張ってどこかへ連れて行こうとしている。


「あの、この子は?」


ショコの髪を引っ張る女性の手を押さえたオミが抑揚なく問う。


「あらっ、旅人さん。お見苦しい所をすみません。この子はいいんですよ、孤児みなしごなので働かなければいけません」

「そうですか。だが……、いや、何でもない」


オミはどうするべきか逡巡した。


ショコとは多少の縁あれど、生まれ育った街での事に口を出していいのかどうか迷う。


しかし、ショコの目から涙が溢れ、喜びの"心"がころんと地に落ちた。それを見てオミの心は決断する。


「その子を譲ってはもらえまいか?」

「はあ? 何言ってんだい? 困るよ旅人さん。こんなんでも大事な働き手なんでね」

「大事な、ね」


ふっ、と馬鹿にしたように笑ったオミは腰からナイフを出す。


「な、なんだい、そんな物騒なもの……」

「仕方ないだろう。なあ?」


ナイフの刃先を煌めかせ、最後はショコに向けて問い掛ける。


「オミ、お願い、そのナイフで私を殺して」

「ああ。お望み通りに」

「何言ってんだいっ! やめっ、やめなよ!」


だが、それは一緒だった。


女性の静止の声も虚しく、ショコのお腹から赤が飛び散った。


きゃー、と叫んだ女性が腰を抜かして尻もちを着く間に、オミは少女の死体を臣の背に乗せ、来た道を走って戻り、急いで大きな橋を渡った。




「私は少女の死体が好きでねぇ」


森の中、焚き火をおこして、その火で捕えたばかりの新鮮な肉を焼く。


「あー、お腹空いた」

「やめてくださいご主人様」

「いいだろ、悪者感が出て」

「オミ、悪者なの?」


赤赤と燃える火を見つめながらショコが問う。


「あのオバサンにとっては悪者になるんじゃないか?」

「でも私にとっては正義ヒーローだよ。もうあの街に帰らなくていいんでしょ?」

「ああ。ショコは死んだ事になってるからな」

「あの時はひやひやいたしました」

「見事だろ、私のナイフ捌きは」

「お腹にあったケチャップにぐさ。スゴいねオミは」

「もしケチャップではなくショコの身体に刺さっていたらどうするのですか?」

「そんな事する訳ないだろう? あの街に住むショコは私が殺した。だから今ここにいるショコはこれから私たちと共に旅をすればいい」

「うん。……あ、そういえば喜びの"心"落としたんだけど」

「それならここにある」


そう言うとオミはポケットからショコの"心"を取り出した。


優しく微笑みながら渡すと、受け取ったショコの頬が上向きになる。


それを満足そうに見たオミは焼けたばかりのウサギ肉をショコに食べさせた。






〈了〉


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オミとショコの旅 風月那夜 @fuduki-nayo

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