第7話 火星領極東管区

 多くの者の予想を裏切り、火星側は120隻余りの宇宙船の全てを日本列島へ一気に降下させた。

 彼らは火星から帰還する際に国連の調査員によって臨検を受けていたが、「一刻も早く全ての火星人を帰還させ断罪せよ」と熱狂渦巻く国際社会の圧力、そして火星の低重力等の環境に不慣れなこともあり、地球の調査員は全ての船を隅々まで調べることはできなかった。

 既に数年前から国際社会は火星に対し経済制裁を課しており、今回ついに首領カレルレンが国際裁判に引き摺り出され、全ての火星人が宇宙船にすし詰めになって地球に帰ってくる。火星人は制裁によって限界まで疲弊しており、抵抗するつもりは無いのだろう。ましてや戦争などになるはずがない。

 電磁パルス攻撃によって戦端が開かれるまで、火星との戦争を予期する者は極少数だった。国際社会は戦わずしての勝利を確信していた。調査官が一般の貨物に擬装して載せていたEAを見つけられなかったのは、地球人のそういった驕りも要因としてあった。火星の降下船団はいくつかのグループに分かれ、日本の大都市と自衛隊と在日米軍の軍基地に強行着陸した。中には散発的な抵抗を見せる場所もあったが、ほとんどの電子機器が使えない混乱状態に加え、そもそも火星船団の戦力は少数精鋭のイレギュラーEAだった。すなわち戦場の主役となったノーマルEAのさらに上をいく戦闘能力を持つ機体ばかりだ。

 特に霞が関を襲撃したグループはほとんど抵抗を受けることもなく、日本政府の政治中枢を占拠した。この地域は日本・火星の双方の犠牲者が特に少なく、あまりにもスムーズに事が運んだがために、「日本政府は事前に火星人と密約を交わしていたのではないか」という疑惑さえ浮上した。

 日本はほとんど無血開城に近い形で火星に占領され、政治的にも社会的にも奇妙な形での共存関係を続けながら、その後の火星と地球の戦争の舞台となるのである。

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OUTCAST 椿 泉州 @tsubakisensyu

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