第11話ありがとう

「行ってらっしゃい」

「行ってくる」

そう言うと、キスしてくれた。

ドアが閉まる。

とても、優しい気持ちになる。

涙が溢れた。

 

どうして、啓に声をかけたんだろう。

どうして、啓は私を買っただろう。


色んな事が頭をめぐり、

涙が、とまらなかった。

泣いて、

泣いて、

諦めを、

手に掴んだ。

携帯を持ち、電話をかける。

もう、決めたんだ。

指示された場所に行くと、あいつが嬉しそうに待っていた。

「荷物それだけ?」

おかしかった。

また、そのセリフ聞くなんて。

そして、同じセリフでも、こんなに気持ちが違うんだ、て。

そう、

だ。

私は、

私を売ったんだ。

また、

一緒の事をするだけだ。

相手が違うだけ。

ううん。

始めから、この人なんだ。

それで、

皆が助かるなら、

私なんてどうでもいい。

「乗れよ」

そう言うと、自分だけ先に乗った。

私は自分で荷物をのせた。

「部屋とってるから」

車を発信させながら、嫌な笑いでそう言ってきた。

ぞわりと、寒気がたった。

小さい頃から1番の取引先の息子なだけに、無下にも出来ず、のらりくらり逃げてきた。

でも、高校になってから、

付き合うおう、

の一点張り。

それも、普通じゃない。

後ろから、つきまとったり、

私に話しかけた男子に女子にも、嫌がらせをしていた。

気持ち悪かった。

怖かった。

あいつが会社を手伝うようなってからは、

私に、

俺を敵にしたらどうなる、

そんな事ばかり言ってきた。

最近特に結婚を迫ってきて、

冷たく断り続けたら、

仕事を回してこなくなった。

あからさまだ。

「もう、心配しなくてもいいんだ。俺が全部面倒見てやるからな」

よく言うわ。

全部あなたのせい。

あなたの気分で全部決められる。

でも・・・

もういい。

思い出は、

あるから・・・。


ホテルの部屋に着くと、キスしようとしてきた。

「まって、シャワー浴びたい・・・」

「そうだな。俺のために綺麗にしてきてくれよ」

笑顔がつくれなかった。

ただ頷き、顔を見せないように浴室に向かった。

気持ち悪い。

その一言以外のなにものでもない。

シャワーを浴びながら、泣きそうになるのを我慢した。

 

なんか、楽しい事探そう・・・

あいつからは、逃げれないんだから。


ガウンを着て、ベッドに向かった。

先に横になっているあいつを見ると、

また、

泣きそうになり、

吐き気がした。

我慢だ。

すぐ終わる。

わたしがベッドに近づこうしないのを耐えきれず、そばにきた。

「俺が気持ちよくさせてやるから」

 

啓・・・


浮かんでくるのは、

1人だけ。

ガウンを脱がされる。

汚い手が、胸を触る。

ぞわりと、寒気がした。

我慢だ。

それだけが脳裏に浮かんだ。

ドンドン。

扉を激しく叩く音がする。

そのあと、しつこいくらい、チャイムが鳴る。

「誰だ。部屋間違えてるんだろ。こっちに来い」

腕を引かれ、ベッドに倒された。

ドンドン。

ドンドン。

「璃空、いるんだろ!開けろ」


啓・・・?


「この間の男か。後をつけてきやがったのか」

まさか。

だって、何も言わずに出てきた。

朝だって、普通だった。

「璃空、分かってるだろ。俺しかあの会社は助けれないのは。ちゃんと言ってやれよ」

下品で、何もかもを手に入れたような、態度と声。

そう言うと、ドアを開けに行った

「何しに来た。璃空は俺を選んだんだ。まあ、璃空の口から聞けばいい。惨めになるだけだ」

「どっちが惨めになるんだろうな。璃空」

名を呼び傍に来た。

ガウンで前を隠す。

顔なんて見れない。

「私は・・・」

「幸島製造所は山神が買い取った」

「・・・?」

意味が分からなかった。

顔を上げると、見たことの無い安心した顔が、あった。

「着替えろ。帰るぞ」

「啓?」

「お前何言ってるんだ!?」

「言ったままだ。璃空の実家は俺が買い取った。これからは、山神グループの傘下で仕事を回す。お前の所からの仕事は必要ない」

「そんな、そんな事が・・・!」

「どっちにしろ、お前の会社程度では」

そこで言葉を切ると、

「相手にならん」

高圧的な言葉と瞳に、あの男が膝を着いた。

「璃空。間に合ったのか?」

目を細め、私の頬を触る。

頷く。

「良かった・・・。帰るぞ」

「・・・うん」



帰ってから、凄く怒られた。

何で相談しなかった!

て。

迷惑かけたくなかった、

と言ったら、

元々迷惑から始まっただろうが、

とまた怒られた。

 

確かに。


どうやって場所がわかったのか聞くと、

バツが悪そうな顔して、

私の携帯にGPSを入れてたらしい!

なんで?

て聞いてら、

急にいなくなったら困るから、

て。

赤い顔で言われた

やっぱり大きい会社の人だったんだ、

て聞いたら、

呆れられた。


調べてなかったのか?


て。

普通、名前を知ってるなら少しは調べるだろうが、

と言われたが、

黙る私に、仕方なさそうに微笑んだ。

啓は私の名前を知った時点で、すぐ素性を調べ、

お金がどこに使われたか知っていた。


何で貸したの?


やっと聞いたら、

お前の目が気に入った。自分を買って、て言うくせに、目は強かった。金額もおかしい。なにかあるんだろうな、て。まあ、最初は暇つぶしさ。


だろうね。

お金は返す。


そう言ったら、

可笑しそうに笑われた。

婚約者の家を傘下に入れただけだ。


婚約者?

女に興味ないて初めに言ってなかった?


ああ、興味ない。

俺は、婚約者を買ったんだ。

だから、お前は俺のもんだ。


そう言うと、抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私を買って下さい さち姫 @tohiyufa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ