第9話キス
「おかえり」
「・・・ただいま」
このところ出張続きで疲労が溜まっている様子だった。
上着を私に渡すと、疲れたようにソファに座った。
顔色も悪い。
「ご飯は?」
「いらない」
帰る時間は連絡はくれたから、用意はしていた。
「少しは・・・」
「いらない」
即答。
「うどんとか」
「いらないって言ってるだろ!うるさい!」
苛立ちに声が上がりる。
「ご・・・ごめん・・・」
「・・・先に寝ろ。俺は、少し呑む。何もいらない」
釘を刺された。
お酒のあてで少しでも、と私が思う事を知っているからだ。
今は12時前。
確かにこの時間から食べてると良くないだろうが、
食べずに呑む方が、身体に悪い。
「璃空・・・。寝ろ。俺も少ししてら寝るから」
私が心配そうに、たってるのが、気になったんだろう。
前よりは、
喋ってくれる。
「・・・わかった。おやすみ」
「ああ。おやすみ」
ふと目が覚めた。
起き上がると、啓はいない。
ベッドも冷たかった。
明かりが漏れていたから、まだ、起きてるのか、と思った。
時計を見ると2時30分。
まだ、呑んでるの?
寝室を出ると、まだ呑んでる様子だった。
グラスが変な場所に転がっている。
珍しい。投げたのね。
それだけ疲れて、苛立ってるんだろう。
「・・・啓・・・」
俯いていたから、私が来たことに気づいてたなかった。
「・・・起こしたか・・・?」
そのセリフで、やっぱり投げたんだ、と思った。
「どうだろう」
横に座る。
呑んでるにも関わらず顔色が悪かった。
・・・寒そう・・・?
何でそう思ったか分からない。
何となくそう思ったから、啓の腕を私の腰にまわし、近くによった。
「どうした?」
「なんか・・・寒そうに見えたから・・・」
「俺が?」
不思議そうに、私を見る。
「他に誰がいるの?」
笑いながら、啓が持っていたグラスをとり、テーブルに置いた。
「これ以上呑んでも、酔えないよ。疲れすぎて頭が冴えてきてるでしょ」
大きな溜息が聞こえた。
「・・・お前は・・・何で・・・」
なんだかおかしかった。
「何だ?」
私が急に笑ったから、怒った顔になった。
「だって、啓て面白いね」
「面白い?そんな事言われたことない」
「だって、いつもなんで、て聞くし、いつもつまんなそう」
「そんな事言われた事がない。皆、興味が無さそう、無関心なんですね、て言われる」
「それが、面白いって言うんじゃない?」
「璃空は俺の事が面白いて思ったのか?」
「うん」
素直にそう思ったのに、
なんで、
そんなに驚いた顔をするのかが、おかしくて笑ったら、
少し、
照れてた。
・・・・?
急に啓の声が耳元で聞こえた。
一瞬何がおきたのか分からなかった。
優しく抱きしめてきた。
「・・・啓・・・?」
「・・・寒いか・・・。そうなのかもな・・・」
戸惑う私に、独り言の様に呟き、私の背中をさすった。
気のせい、だよ。
その触り方が、
私を女の気持ちにし、
蓋をしていた感情が、
出たくて、
大きく揺れる。
いつの間にか、啓の背中に腕を回していた。
「璃空・・・」
私の顔を見つめ、
キスしてきた。
お酒の匂いが鼻をつく。
酔ってるからだ。
そう言い聞かせる。
そうじゃないと、変な期待をしてしまう。
そうじゃないと、この優しいキスを、誤解してしまいそうだった。
これは、
違う。
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