第2話一月後

「それだけか?」

私の荷物を見て、呆れていた。

小さなスーツケース1つ、たったそれだけ。

「はい」

下着に着替え。

たったそれだけが、このスーツケースの中に入っている。

元々そんなに買うほうじゃない。

必要最低限あればいいから、逆に荷物をまとめるのは楽だった。

「まあ、いいか。乗れよ」

ぞんざいな態度で、私のスーツケースをトランクに乗せてくれた。

たかがそんな事で、

以外に優しいのかも、

と思ってしまう自分が、


単純だな、


と思った。

この人は一月後迎えに来ると言った。

逃げる事も出来た。

それが賢い選択なのも分かっている。

でも、

道楽だとしても、

この人は、

私の人生を変えてくれた。

大切なものを助けてくれた。

それだけで充分だ。

車を発進させ、少ししてから男は喋り出した。

「名前は?歳は?」

「幸島 璃空(さちしま りあ)。24歳」


あなたは?


と聞き返したかったが、そんな優しい空気ではなかった。

突き放すような、無表情なの顔と声。

重たい空間だった。

「璃空・・・。変わった名前だな。俺は、山神 啓毅(やまがみ けいき)25」

ぶっきらぼうに運転しながら、教えてくれた。


1つしか変わらない。


でも・・・なんて言うんだろう・・・とても距離を感じる。

冷たくて、無表情で、拒否を醸し出していた。

「掃除、洗濯、料理は出来るか?」

「人並みには。けど、料理は、庶民的なものしか作れない」

「なんだ、その庶民的、て」

馬鹿にされたと思ったのか、ムッとしていた。

「だって、」

窓の外を見る。

「ああいう店のハンバーガー食べたことある?」

大手外食チェーンの看板を指さす。

「ない」

「でしょうね」

「上手いのか?」

「私は好きだけど」

「じゃあ昼メシはそれにしてみようか」

確かにお昼の時間だが、そんなにあっさりと決める?


食べたことないのに?


でも、

その前に。

「私、お金ない」

隠す必要なんて、もうない。

別に生活保護受けるとか、そこまでまお金が無いわけじゃない。

ちゃんと仕事もしてる。

支払いだってしてる。

ただ、娯楽にかける余裕はない。

ハンバーガーだって、私にしたら、外食で高価なものだ。

「そんな事分かっている。これからは璃空が払うものなんかない。お前は俺の物なんだから」

特に感情も無く、無表情に言ったそれが、とても楽だった。

何も考えてない。

それだけなんだろうけど、

こんなに、

惨めに思う自分が馬鹿らしく思えるくらい、

本当に、

サラッと言われ、

久しぶりに、

安堵を覚えた。

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