私を買って下さい

さち姫

第1話 私を買って下さい

「私を買ってください」

その言葉に、男は汚いものでも見るような目で、睨み付けてきて。

当然だろう。

私が逆の立場なら、腹が立つ。


だって、


買ってください、

の意味は1つだけ。


若い女が

男に声をかけた。


お金持ってそう。


それだけの理由。

高級車に乗り、電話のために停めていた。

終わった所を窓を叩き、

声をかけた。


やばい・・・かなりイケてる顔だ。


とくん、

と胸の鼓動が高くなる。

睨んでくる黒い瞳が、陽の光を浴び綺麗に光って見え、

見惚れそうだった。

でも、

それ以上に、

冷静な自分がいる。


暫く私の顔を見つめると、その男、顎を動かした。

隣に来い

と言っているんだ。

正直驚いた。

罵倒か、

無視か、

と思っていただけに、

戸惑ったが、

躊躇う自分を、必死に押え、

頷き、助手席に座った。

左ハンドルの車で、内装もかなりいい。

「いくらだ」

「4000万」

私の言葉に、顔つきが変わった。

何て言っていいんだろう。

ただ、

最初の蔑みが、無くなった。

「分かった」

「・・・」

言葉が出なかった。

だって、

その言葉を欲しかったが、

出てくる筈がない、と思っていた。

「どうした。欲しいんだろ」

黙る私に、声をかけてきた。

「・・・うん」

あまりの展開にそう答えるのが精一杯だった。

「小切手がいいのか?お前の口座に振り込んだ方がいいのか?」

「小切手」

「分かった」


そうして、その男は、何の躊躇いもなく私に、

4000万

の、

小切手を渡した。


この時から、私はこの男に買われた。

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