イジメられていた青年は、自由を得るために異世界を駆け抜ける

真のユウ

第1話 青年は異世界に転移

 

 朝8時。窓には真っ黒いカーテンが掛かっており、更にその上からこれでもかというほどに、新聞紙やら教科書の切れ端やらをガムテープで張り付けてある。

 

 そのため、その部屋には一切陽の光がさしておらず、あるのはホーム画面のままで置いてあるパソコンの光だけ。

 

 そしてそんな部屋の隅に、体育座りのように膝を抱え込んだ一人の青年が座っている。


 何かにおびえるように丸まっているため詳しくは分からないが、身長は165センチ程で痩せ型、イケメンとは言えないが、ブサイクとも言えない顔をしている。

 

 しかしその顔は、この部屋の現状のように真っ暗で、この世の全てに絶望した表情をしてる。まるで自殺する寸前の人のように。


 そしてその青年は何かが聞こえたようで、俯いていた顔を突如上げたと思えば、部屋にある唯一の扉に視線を向けた。

 

 体をビクビクさせながら手で耳を覆い始め、それと同時に・・・。



__ ドンドンドン!!! __


「いい加減出てきなさいよ!! 」


 甲高い声で怒鳴りちらす、女性の声が扉の向こうから聞こえて来た。


「高校だって無料じゃないんだよ!! 少なくないお金を払ってんの!! それをアンタは!! 自分のやったことが原因なのにも関わらず!!ひきこもる!?!? ふざけるんじゃないよ!!! 」



__ ドン! ドン!! ドン!!! __


 扉の向こうから聞こえる声は、だんだん強い口調になっていき、終いには扉を壊すんじゃないかと思うほど強く叩きだす。そのせいで扉はミシミシと音を立てる。


 しかも甲高いせいか、それとも大きな声だったからか、青年はは耳に手を当てたまま目元に涙を浮かべ、小さな声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度もつぶやく。


 すると扉の向こうにいた人は何を思ったのか、それとも青年のあやまる声が聞こえたからなのか、かなり大きなため息を吐いた後、階段を降りていく音が聞こえて来た。


 そのことに安心したのか、青年は体を震わせたままではあるが、顔にあった恐怖は先ほどよりは無くなっていた。


 しかし、少し経った後に階段を上ってくる音が聞こえて来た。それも二人の足音が。



__ トントン __


しん君?先生だけど、皆あのことは気にしてないから学校に来ても大丈夫なんだよ?」


 清と呼ばれた青年は、自分の事を先生という人の話を聞き、何かを思い出したのかのように先ほど以上に体を震わせ縮こまる。


「清?先生もこう言っているんだし、一度学校に行ってみなさいよ」


 先生の言葉を後押しするように、さっきはあんなに怒っていた人が、まるで別人のような優しい声色で言ってくる。しかし清は何も答えず、ただただ怯えている。

 

 そして清が何も言わずにいると、扉の向こう側から小さなため息が聞こえて来た。


「はぁ~・・・。清君。君が来ないと迷惑する人が沢山いるんだよ。君一人のわがままのせいで。だからさ、いい加減我慢することも覚えようよ、ね?それにクラスメイトも悪かったって思っているから、もうあんなことは起きないから」


 先生は何処かウンザリしたような、そして面倒くさそうな声音で言っている。だがそれでも清は答えない。いや、恐怖のあまり答えられないでいる。


 一切返事が返ってこないことにしびれを切らしたのか、何やら扉の向こうから小さな声で話し合っているのが聞こえて来た。


 そして数分程経った後、扉を壊すんじゃないかと思うほどの強さで、何かを打ち付ける音が聞こえて来くる。



__ ドン!!! ドン!!!! バン!!!! __  


 ミシミシときしむ音を出しながら頑張っていた扉は遂に外れてしまった。しかも清の部屋に男女二人が入ってくる。


  まさか扉を壊してまで入ってくるとは思わなかった清は、恐怖と驚きのあまり動けずにいると、男は清の下へ、女はクローゼットや勉強机のある方へ向かう。


「清君、学校に行くよ」


 清に近寄って来た男は安心させるように、目線をかがむことで合わせそう言った。しかし清は、目元に涙を浮かべ、更に顔面蒼白のまま必死に首を横に振る。

 まるで、何かに怯えるかのように。


「はぁ~・・・。いい加減わがままを言ってないで大人になれよ!! 」


 しかし男には清の気持ちがわかるはずものなく、そう言いながら清の腕を掴み入口へと引っ張っていく。

 

 清は必死に体をばたつかせ抵抗するも、相手の方が体格が良いため何の意味もなさなかった。

 

 そしてそんな清達の下に、女が制服や鞄を持って近づいてくる。


「ほら、荷物は準備したからさっさと着替えて」


 冷たく、そして切り離すように言われた清は、あまりの恐怖と抵抗しても無駄だということを悟り、泣きながら言われた通りに着替え、荷物を受け取る。


 そして途中で逃げられないようにするためか、男は清の腕を強く握りながら部屋から、そして家の外に出し、道路に止めてあった車の助手席に無理やり乗せさせられる。


 清はどうせここで逃げても無駄だと思ったのか、最終的には鞄を抱えながら助手席で大人しく座る。

 

 そして車が窓から見える景色が流れていき、学校に近づいているということが分かり色々と思い出してしまう。

 

クラスメイト全員から殴る蹴るの暴力。弁当の中に虫を入れられる。トイレに無理やり連れて行かれ裸の写真や動画を取られ、個室に入ると上から水を被せられる。そんなことが日常茶飯事で起きたことを。

 

 先生や親に相談したがいじめられるのが悪い、いじめられないように頑張れと、意味の分からないことを言ってくる。この世界には見方いない。希望もない。皆俺が悪いと言ってくることを。

 

 もう死のうと考えた。何度も何度も考えた。どうやったらあいつ等に罪悪感を残し死ねるか、どうやったら後悔させられるか。


 そして何度も実行に移そうとした。したけど、それだとあいつ等に屈したようで、負けたようで、そして死ぬことへの恐怖のせいで、結局出来なかった。何一つとして・・・。

 

 そんな事を考えていると、遂に学校に着いてしまう。


 そして車を止めた男は清を無理やり車から降ろし、逃がさないように腕を掴みながら歩き出す。そのため登校していた多くの生徒が清のことを見てくる。


 中には清のことを知っているのか、驚いた表情をしている人や、汚いものを見るような目をしている人がいる。


 清はその視線を感じ顔を真っ青にさせるが、そんなことに気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか分からない男に、教室の前まで連れてこられた。


「じゃあ清君。先生は朝の職員会議に参加してくるから、あとは一人で頑張ってね」

 

 男はそれだけ言い残し、何処かに歩いていってしまう。そのため扉の前で放置された清は、どうこうすることも出来ず、扉の前で固まってしまう。

 すると扉の向こう側に誰かが近づいてくる影が見え・・・。



_ ガラガラガラ _


「おい!本当に変態が来てるぞ!!」


 扉が開き、体格のいい男子生徒である近藤大樹こんどうたいきが教室にいる人たちにそう言う。


 するとその瞬間男子達からは笑い声が、女子たちからは軽蔑するような視線が向けられる。清はそんなクラスメイト達を見て、胸に抱えていた鞄を強く握りしめる。


「マジかよ!あんなことをやってまで来れるのかよ!マジ尊敬するわ!!」

「どこが尊敬できるのよ、あんなクズ。死ねばよかったのに」

「本当、なんで生きてんのかなぁ~」

「またやっちゃう?」

「お!いいね!!またやっちゃうか!!」


 清に近づきながらそう言って来たのが久遠結人くおんゆいと夢咲春香ゆめさきはるか水野葵みずのあおい鈴木賢治すずきけんじの四人。清をイジメ始めた人たちであり、大樹の親友でスクールカースト上位の人たち。


 清はその話の内容を聞き、またあの地獄のようなことをされるのだと思い泣きそうになっていると、大樹に教室へと無理やり入れされられた。そして教室に入ったことを合図に、大樹たちに足を掛けられて転ばせられ、大樹を入れた五人から蹴られ始める。


 その蹴りには一切の手加減はない。サッカー部だからとか空手部だからとかも関係なく、本気の蹴りを入れてくる。


 全身から蹴られるたびに骨が軋むような音もたまに聞こえてくる。しかしそんな中でも清は、必死に頭を手で守り、体を丸めることしか出来ない。


 ——何もやってないのに、俺は何もやってなのに! 何で・・・何で・・何で!!


 どうしてこんなことになってしまったのか、何でこんなにも弱い存在なのか、清の頭の中を色々なことが駆け巡っていると


「まぁまぁ、そこらへんにしときなよ」


 突如そんな声が教室内に広がり、それと同時に蹴りが止んだ。清はそのことに驚きながらも顔を上げてみると、そこには神野輝夜じんのかぐやが立っていた。


 イケメンで運動能力が高く勉強も出来る。そして大樹たち五人をまとめている人。つまりカーストトップの男。そんな輝夜が言ったからこそ、みんなは渋々俺から離れていく。

 

「ほら、清君もいつまでもそんな所で倒れてないで立ちなって」


 そして優しく清に手を差し伸べてくるが、その手を取らない。すると輝夜はそのことにイラつきを見せながら、強制的に清を立ち上がらせてくる。


「いやぁ~、いつもいつも楽しませてもらってるよ。ありがとう。そしてこれからもよろしくね。し・ん・くん」


 憎たらしいに笑みを浮かべながら、周りの人に聞こえないようにか、耳元で小さく囁いてきた。


 その瞬間、清の中で「ブチッ」という何かが切れる音が聞こえ、それと同時に身体の奥底からドロドロとしたものが溢れ出してきた。


——お前のせいで!お前さえいなければこんなことにならなかったのに!くそ、くそ、くそ!!殺してやる!殺してやる!!


 そして、清の両手が輝夜の首めがけて上がっていこうとした瞬間



__ ヴォン!! __


 

 突如その音とともに教室の床に魔法陣みたいなものが現れた。


 清は驚きのあまり、首を絞めようと上げていた手を止める。


 そしてクラスにいる人たちがパニックになり始めたその時。

 

 視界を遮るような光が発せられ


 空を飛んでいるかのような浮遊感が全身を包み込んだ。


〚 きっと、君にはこちらの世界の方が合っているよ。シン君。 〛


 そしてそんな声が聞こえたと同時に、清は意識を失う。




 


 

 

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