第13話 インスタ戦争⑥
意地悪姉二人が弟いじめをしている間に、菜々香による採寸は完了した。
「それじゃ、わたしはミシンで寸法直しをしてきます。二十分くらい待っててください」
菜々香はシャツを持って退室する。
「今のうちにベルトも決めときますか」
「ベルトねえ」
はじめの提案で、また紅子はクローゼットのユニクロ・コレクションを引っかき回す。
「これとかどうよ?」
「なんでそんな骸骨のバックル付いた真っ黒なベルトなんすか。他にもっとまともなのあるでしょう」
「んじゃ、これは?」
「キャメルの革メッシュベルトすか。ま、これならいいでしょう」
その後、菜々香の持ち帰ったシャツが加わり、ついに紅子のユニクロ・コーデは完成した。
ロールアップしたベージュのワイドパンツにオフホワイトのブラウスの組み合わせがゆるふわ系のファッションを形作り、そこに革のグルカサンダルとメッシュベルトが大人の色気を加えている。
「ほお……いいんじゃないですか」
「可愛いです! すごくいいですよ、お嬢様!」
「うんうん。いいじゃんこれ! 爽やか、ゆるふわ、スタイリーーッシュ! これこそわたしの求めていたコーディネートよ!」
イルカも菜々香も、紅子本人もご満悦の出来栄えであった。
「よっしゃ! イルカ、撮影よ! イエええーーーーい!」
さっそく紅子はダブルピースを決める。
「お嬢。そういうポーズはやめてください」
当然のごとく、はじめのダメ出しが入った。
「じゃあどうすればいいのよ」
「オフショットっぽく……目線はカメラじゃなくて横の方を見て、普通に歩いてるような感じでお願いします」
紅子は言われた通りにポーズを決め、イルカがシャッターを切った。
「……よく考えたら、部屋の中でサンダルはいてるのって、なんか間抜けじゃない?」
「背景は画像ソフトで編集できますよ。適当な風景写真にでも変えておけばいいんです」
「ならば、そこはこのイルカにお任せください」
撮影した写真をイルカが画像アプリで加工する。
青空の下、波打ち際を歩くオシャレ美少女の図が出来上がった。
「やべえええええええ! わたし可愛すぎる! まさにこれぞインスタ映えってやつよね!?」
「そうすね。いい感じじゃないすか」
「ええ、これなら紫凰様のインスタにも十分対抗できるでしょう」
「そうね……。でも、あの……お嬢様って、自撮りを盛ったりとかしないんですか?」
「盛る?」
「アプリを使って写真の顔を加工して、美白にしたり小顔にしたりすることです」
「んなことするわけないじゃん。わたしは素のままで超美人なんだから」
「まあ……そうですよね……。はあ……すっぴんで自撮りして、なんの加工もせずそのままインスタに上げられるなんて凄すぎですよ……」
紅子の写真を眺めつつ、菜々香は羨望のため息をついた。
「そんな驚くこと? 当たり前でしょ、そんなの」
「いや、ほとんどの女子はSNSに上げる自撮りは盛ってますよ」
「はあ? んじゃ菜々香、あんたもやってんの?」
「まあ……それなりに……」
「なにそれ? 自分の顔が気に入らないからって機械の力で写真ごちゃごちゃいじって、顔ちっちゃくしてー、もっと色白にしてー、とかやってんの? 虚しくならない?」
「……………………」
「そんな自分に嘘ついた写真をネットに上げて、それで褒められて嬉しいの? 加工した写真でいいね貰っても、どうせ毎日洗面所にいけばありのままの自分の顔を見ることになるのよ? その時どういう気持ちで……」
「お嬢様、やめてください。また嫌われますよ」
イルカが紅子の口をふさいだ。
「菜々香、お嬢の言うことは気にすんな。悪気はないんだ」
「……分かってる……お嬢様は、ちょっと率直すぎるだけで……本当は優しい人なのよ……うん……ちゃんと分かってるから…………はは……」
菜々香は頬を引きつらせながら、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「まーまー、加工アプリのことは置いといて。とりあえずイイ感じの写真はできたんですから、この路線でガンガン攻めていましょう。ね、お嬢様」
イルカの言葉に、紅子は鼻息荒くする。
「そうね、待ってろ紫凰! わたしを甘く見てフォローなんかしたことを後悔させてやるわ! あんたの信者を根こそぎ奪って、悔しがらせてやるからね!」
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