第13話 宿命の対決・紅子VSイルカ②

「最近、お嬢様が暴れないから暇ですねえ」


 自室のベットに寝転がり、ノートパソコンをいじりながらイルカはぼやいた。


 アメリカから帰国して以来、ほぼ毎日のようにインターネットで煽られただの、バカにされただのと大騒ぎしていた紅子が、ここ数日は妙に大人しい。おかげでイルカが呼び出されることもなくなったが、そうなると暇を持て余してしまうのだ。


「ま、こちらとしては、仕事が楽でいいんですが……」


 紅子のお守りはイルカの最重要任務であり、紅子が暴れたり叫んだりしないように制御しておけば、それで仕事の九割は完了するのだ。


「なにか面白いネタ転がってないですかね……」


 毎日チェックしているSNSもブログも動画も、とっくに巡回済みだ。


 この機会に新しいお気に入りを増やそうかと、イルカは広大なネット空間をウロウロとさまよう。


 そして、とあるブログを発見した。


「『“宿命の対決”応援ブログ』? センスのないタイトルのブログですねえ」


 普段なら気にも止めない、ネットの片隅の泡沫ブログだ。しかし暇で暇でしょうがないイルカは、物は試しと開いてみた。


「あははは。なんですか、これ。『素晴らしい友情だと思います。一話でもう最高だと思います。ノーベル文学賞を送るべきだと思います』……『思います』の三連発って。ゴミのような文章ですね。しかもノーベル文学賞って。小学生の作文でも、もう少しまともですよ」


 本当に小学生が書いているのかと思ったが、ブログ主である『青子』のプロフィールを見ると十七歳とある。


「十七歳でこの知能ですか。ぷぷっ、相当やばいですね。これは逆に面白いですよ」


 年齢相応の文章で、可もなく不可もなく、毒にも薬にもならない平凡な漫画レビューなら、イルカはさっさと見切りをつけただろう。だが、えてしてネットという所では、無難な凡作より突き抜けた駄作のほうが注目されがちなのである。


「『続きを書かないと殺す、とかそういうことは書いてはいけません。そういうことを書くと逮捕されて刑務所行きになってしまいます。ネット初心者はよくそういう間違いをするので注意しましょう』……って。初心者はあんたでしょうが。本当にバカすぎて面白いですね。……これは、ちょっとからかってやりたくなりますねえ。うえへっへ」


 普段のイルカなら、ネットで勘違いバカを見かけても暗黒微笑を浮かべるだけで、自分から煽るまではしないのだが、今日はとにかく暇であった。


 そしてもうひとつ、イルカは“宿命の対決”という漫画が嫌いだったのだ。


 その二つの理由が重なって、イルカは誰一人見ている者はいないであろう『“宿命の対決”応援ブログ』のコメント欄へと書き込みを始めた。


 

 名無しさんのコメント:

『よくこんな薄っぺらいお涙頂戴のクソ漫画で感動できますねww低能さんですかww?』

 

 青子さんのコメント:

『クソ漫画ではありません。“宿命の対決”は素晴らしい漫画です。すぐに謝ってください』

 


「うわ、五分もしないうちに噛み付いてきましたよ。暇人ですねえ、プププ」


 これは煽りがいがありそうだ、とネット弁慶ならぬネットヤンキーイルカは、笑いながらコメントを続ける。


 

『オームを助けるアルが格好いいなんて、いかにも素人の浅い感想ですよね。あんなもん、アルつえーすげーって美化するために、オームを相対的に情けない存在に描いて、引き立て役に使ってるだけなのに。ま、小学生のお子ちゃまにはわからないですかねw』

 

『わたしは小学生ではありません。それと、オームをバカにするのもやめてください』

 

『だから、オームをバカにしてるのは私じゃなくて、この漫画の作者とアルなの。理解できないかなwアルは生まれからして貴族の子供で運動神経抜群の陽キャで、オームは貧乏人の子供でグズないじめられっ子で、よくここまで露骨にキャラ差別できるなって逆に感心するよ』

 

『そんなに立場の違いがあるのに友達になってあげるアルはとても良いやつでしょう。なぜ分からないんですか』

 

『その、友達になってあげる、とかいうスタンスがおもっくそ不快なんですけど。アホなの?』

 

『アホとはなんですか侮辱ですよ。警察に逮捕されたいんですか』

 

『で、大人になってからも全編通してずっとアルはヒーローで、世界中で活躍してすげーすげーって言われて、一方オームはずっと村にいてウジウジし続けた末に闇落ちって、なにこれ。これを感動的な友情物語とか言って売るのは、もはや不当表示法に引っかかるレベルでしょ』

 

『その闇落ちしたオームをアルが助けてあげようとするのが、一番の見どころなんですけど。これこそまさに友情物語でしょう。あげ足取りばかりしてないで、この漫画の面白さをちゃんと認めなさい』

 

『いや、だからねwwww はあ……本当に低能と会話するのは疲れるわ……』

 

『わたしのIQは300あります。バカにするのはやめてください死にたいんですか』

 

『想像を絶するバカだねあなたはwwwwww』

 

『もういいです。二度と書き込まないでください』

 

『妄想全開のオナニー漫画の読みすぎで、妄想と現実の区別がつかなくなったんだねwww もう手遅れですわwwwww』

 

『ふざけんえnなよおい!!! きえろおといtるんだy!!! こrsぞおおい!!!』


 

「ぎゃはははっはは! こいつ面白すぎでしょ! なんなのこいつ! あははははは!」


 ちょっとからかうだけのつもりが、予想外に相手が熱くなってきたので、つい長々とコメントを返してしまった。いやそれにしても、楽しいおもちゃを発見した、とイルカは満足して『“宿命の対決”応援ブログ』をブックマークに加えた。


「こんなクソみたいなブログを、青子さんは毎日更新しているのですか。これはぜひ、明日も訪問して荒らしてあげなければいけませんね。うえへっへ」


 そのためには予習が必要だ、とイルカはブログで紹介されていた漫画サイトへ向かった。


 青子の言うとおり、このサイトでは“宿命の対決”を期間限定で無料公開していた。


 イルカは、数年前に“宿命の対決”を全巻読破しているのだが、細かいストーリーは忘れてしまっている。


 青子のブログをちゃんと荒らすには、もう一度しっかり読み込んで詳細まで把握しなければ――と実に歪んだ思考でイルカは“宿命の対決”を読み始めた。

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