第10話 転売屋を追いかけろ④

「これはまた無茶なご命令を……まあ、やれるだけはやってみますがね」


 いつものように紅子が席を立ち、イルカが代わる。


 レスバトル第二ラウンドの開幕だった。


「できるの?」


「まあ殺すはさておき、このたくま先生をやり込める方法はあるかと。こいつはかなり驕っているようですからね」


「驕っている?」


「そうです。こいつはお嬢様を騙して、まんまとVIPチケットを手に入れた自分を賢いと思っているようですが、わたしに言わせれば穴だらけの計画ですよ。強力なコネを持つ関係者が裏口から出てくるのを待って、嘘泣きして同情を引いてチケット恵んでもらおうなんて、上手くいくほうが稀なんです」


「上手くいったじゃない」


「それは結果論です」


「結果が全てでしょ」


「今はそういう話をしてるんじゃないです。……とにかく、ずさんな計画がたまたま成功したのを、幸運ではなく実力だと思っている。こういう勘違いをした奴は、ときに信じられないほど愚かになるものです。そして、なによりも……」


 イルカはにやりと笑った。


「こいつは今日、最低最悪のミスを犯しています」


「え……?」


 イルカは説明をそこで切り上げ、紅子のアカウントから書き込みを始めた。


 

 炎城寺紅子@Redfaire

『わかりました。もうわたしのチケットは諦めます。ただ、こんなずるい事は今回限りにしてください。わたしや他の選手たちの試合を楽しみにしている、ファンの人の気持ちを考えてください』

 

 バフェットたくま@InnovatorTKM

『ずるい事ですかw クリエイティビティのない人種とコンセンサスに至るのは難しいなあ……構造破壊リコンストラクトは私のビジネスの基本戦略なので。人の気持ちを考えることは今のルーチンワークに組み込んでいないし、今さら中学生の頃の意識ステージに戻れというのは勘弁してくださいwww』

 


「……なに言ってんのか意味不明だけど、バカにされてるのはわかるわよ」


 

 バフェットたくま@InnovatorTKM

『あ、あなたにも理解できる言語に換言すると、返答はノーですw』


 

「ぐぎーーーー! こいつ、これからも同じことやるって! なんて奴なのよ!」


「これでいいんですよ」


「は? なにがいいのよ!?」


「このために、たくま先生が気持ちよくバカにして悦に浸れる『時代遅れの情弱』を装って書き込んだんです。まあ、装うも何もお嬢様はまんまそれなんですが……。で、『ずるい』とか『人の気持ち』とか、この手の奴が大好物にしてるキーワードを餌にばらまけば、必ず釣れると思ってましたよ」


「はあ……?」


 たくまも同様、イルカの言っていることも紅子にはさっぱりわからない。


「お嬢様にも理解できる言語に換言すると、バカにしてる相手にやるなと言われたら、意地でもやってやりたくなるってことです」


「それじゃ駄目でしょうが!」


「それでいいんですよ。さっきも言ったでしょう。こいつは最低最悪のミスを犯していると」


「ミスって何よ?」


「こいつは、お嬢様に顔を晒してるってことです。多分、イベント会場の防犯カメラにも写ってるんじゃないですか」


「あっ……たしかに……」


「それなのに、って言うんですよ。まったく、正気の沙汰とは思えませんね」


 イルカは肩をすくめて言った。

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