第2話 不人気動画の作り方②

 脳筋でデジタル音痴の紅子とは対照的に、イルカはインドア派でIT関係に詳しい。


 とはいっても、プログラミングやHP作製のような生産的なことはろくにできず、得意なのはくだらないネットの煽り合い、いわゆるレスバトルだけなのだが。


「紅子様、失礼します」


 ドアがノックされた。


「んー、なによ」


 紅子が答えると、炎城寺家のメイド長、九条くじょうさつきが入ってきた。


「少々お時間よろしいですか」


「うーん。今、イルカと凄く大事な用があるんだけど」


「また二人でくだらないネット遊びをしていた事はわかっていますよ。暇なのですね」


「なら、わざわざ時間あるかなんて聞くなっての」


 さつきの紅子に対する態度は、侍女というよりは親か教師に近い。彼女もまたイルカ同様、紅子が赤ん坊の頃からの付き合いである。


「みい子が、紅子様にお話したいことがあると言ってるのですよ」


「みい子が?」


「ほら、おいでなさい」


 さつきが促すと、廊下から幼い少女が顔を出した。


 炎城寺家の住人では最年少のメイド見習い、根岸ねぎしみい子だった。


「あの、おじょうさま。イルカちゃんも、お願いがあるんです」


 みい子はおずおずと切り出した。


 この少女は、さつきやイルカと違ってそれなりに紅子に敬意……というより畏怖を抱いている。


「お願いって?」


「はい。折り紙を折ってください」


「は? 折り紙?」


「はい。この前、地震があったじゃないですか。それで学校で、被災地の人に千羽鶴を折ることになって、なるべくたくさんの人の気持ちがこもってたほうがいいから、おうちの人にも協力してもらいなさいって言われたんです」


「千羽鶴!?」


 みい子の説明を聞いて、イルカがやたら勢いよく反応した。


「千羽鶴、千羽鶴ですかー! レスバトラーの血が疼きますねぇ……!」


「は、なんでよ? レスバトル関係ないでしょ?」


「なに言ってるんです、千羽鶴はレスバトラーの大好物なんですよ。どこそこの被災地に千羽鶴が送られた、って話題が出るたびに、日本中のネット民は『ゴミ』だの『偽善』だの『自己満足』だのと、ニュースサイトのコメント欄を赤く染めるのです。うえへっへ」


 イルカは実に楽しそうに説明する。


「ゴ、ゴミだなんてひどいよイルカちゃん! みんなが一生懸命、心を込めてつくったのに!」


「心って食べられるんですかー? 被災者の飢えが折り紙で満たされますかー? あ、燃えるゴミだから暖を取るくらいは出来るかも知れませんねえ。あははは」


 みい子の抗議に対して、イルカはヘラヘラ笑いながら煽る。


 そんな見苦しい部下をメイド長が睨みつけた。


「イルカ、黙りなさい。それ以上へらず口をさえずると、あなたを焼却炉に叩き込みますよ」


「あ、はい。すみません……」


 途端に大人しくなるイルカ。ネット弁慶は直接的な暴力や叱責に弱いのだ。


「まあ、という事ですので。紅子様、みい子に協力してあげていただけませんか」


 さつきが紅子に本題を振る。


「べつにいいけど。鶴ってどうやって折るんだっけ?」


「おじょうさま、アメリカにいた頃に折り紙しなかったんですか?」


「なんで外国で折り紙をするのよ」


「日本人が外国で友達を作るときは、折り紙をすればいいと学校で習いましたよ。日本文化を紹介するって」


「んなわけないでしょ。外国人が興味ある日本なんて、寿司とアニメだけよ…………あー、でも紙鉄砲はやったわね」


「かみでっぽう?」


「折り紙……わたしは新聞紙を使ったんだけど、こういうふうに、こう折って……」


 紅子は、みい子から折り紙を一枚受け取って紙鉄砲を作り上げ、空中からスナップをきかせて振り下ろした。


 パン! と、小さいがそれなりに迫力のある音が鳴った。


「わあ、鉄砲みたいな音です!」


「新聞紙でやればもっとでかい音が出るわよ。あっちは銃社会だから、これでイタズラすると、本物の銃で撃たれたと勘違いしてめちゃ慌てるのよね。面白かったわー」


 紅子は昔を思い出してケラケラと笑う。


「それ下手したら逆に撃たれてましたよ」


 イルカが呆れて言った。


「一度、耳を掠めたことがあったわね」


「撃たれたんですか……」


 結局その後、みい子の指導の下で、紅子とイルカとさつきは鶴を一匹ずつ折ることになった。


 さつきは器用に親子鶴を折ってみい子を喜ばせた。


 紅子は「被災者ならこっちの方が喜ぶわよ」と言って一万円札で鶴を折ろうとしたが、さつきが止めたので普通に寄付金として出すことにした。紅子は基本的に善人なのだが、根本的に頭がおかしいので社会から嫌われてしまうのである。


「折り紙っていろんな事ができるんですね。面白いですー」


 さつきの親子鶴と紅子の紙鉄砲を手に、みい子は目を輝かせていた。

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