第25話 質問サイトで頼られたい④

 こりずにまたジャンル一覧をうろうろとさ迷う紅子。

 

「うーん……」


 やがて、とある項目に目を付けた。


「あ、これいいじゃん、『エンターテインメント・ゲーム関係・ポケモン』って。わたしポケモン詳しいわよ。 子供の頃からずっとやりこんでたからね」


「お嬢様のやってたポケモンって、初代のやつでしょう」


「そうよ。わたしが小学生の頃に、さつきからゲームボーイごと貰ったやつだからね」


「それにしたって古すぎじゃないですか。初代ポケモンとかゲームボーイって、三十年くらい前のゲームですよ。メイド長もそこまでの年齢じゃないでしょうに」


「あれって、元々わたしのママのものだったのよ。さつきが子供の頃にママから貰って、それをまたわたしが貰ったの。三代にわたって受け継がれてきたゲーム機ってわけね。壊れちゃったときは、ほんとショックだったわ」


「……そういう話をTwiterでやれば、『いいね』がたくさん貰えるんですがね」


 紅子のTwiterは、誹謗中傷のリプライやリツイートなら一日百件は飛んでくるが、『いいね』を押されたことは開設以来一度もない。


 ともあれ、次なるジャンルはポケモンに決定し、紅子はページトップにある質問を開いた。


「質問者は『もろきゅう』さんね」


 

 もろきゅう:

『こんにちは、私は四十八歳のノマドワーカーです。ポケットモンスターオメガルビーで、伝説ポケモン・ボルケニオンの色違いを入手する裏技を教えて下さい』


 

「……ん、あれ……? 『もろきゅう』って……たしか……」


 紅子は思い出した。


「DVDのことで、さんざんわたしにパワハラかました奴じゃない!」


 昨日、紅子がした質問の回答欄を確認してみると、間違いなく同一人物であった。


「く、くくく……なんてラッキーなの! ここで会ったが百年目、リベンジ開始よ!!!」


 復讐のチャンスが到来したと、紅子は雄たけびを上げる。


 だが、残念ながら紅子には、オメガルビーだのボルケニオンだのの知識はない。


「ねえイルカ。この色違いボルケニオンってやつの入手方法、わかる?」


「わかりますよ」


「ほんと! どうするの!?」


「まず初めに、ボックスの一番左上を空けておきます。次にセーブデータを消して最初から始めます」


「は? データ消すの?」


「後でちゃんともとに戻るから大丈夫ですよ。それで、適当でいいのでセーブができるところまで進めて、セーブします。このとき、『レポートを書き残した!』の表示が出た瞬間に電源を切るんです。これでまたソフトを再開すると、セーブデータが消す前の状態に戻っています。このデータでボックスを確認すると、空けておいたボックスの左上に、色違いボルケニオンが出現しているんです」


「わかったわ! ようし、これで昨日と立場が逆転したわね! こいつが知りたいことを、わたしは知っている! こいつは頭さげてペコペコしながら、わたしに教えを請うしかないのよ!」


「どんな質問にも優しく丁寧に答える、って言ってませんでしたか?」


「そんなもん、相手が善人なら、って条件付きに決まってんでしょ。悪人相手に慈悲をかける必要はないわ」


 そう言い捨てて、紅子は『もろきゅう』相手に、回答の皮を被ったパワハラを開始した。


 

 紅の海豚:

『知っていますが、あなたの態度が気に入らないから教えてあげません。反省してください』

 

 もろきゅう:

『すみません、不快な思いをさせてしまったでしょうか。謝ります。どうか教えて下さい』


 

「あははは! この説教ドヤ顔ジジイが、途端に低姿勢になったわね! 情報を制する者がこの世を制すってのは、本当だったのね!」


 紅子は大喜びで追い打ちをかける。

 


 紅の海豚:

『どんな機種でどんなソフトを使っているのか、書かなければ回答のしようがない』

 

 もろきゅう:

『機種はニンテンドー3DS、ソフトはオメガルビーです』

 

 紅の海豚:

『3DSの色は? 製造年は? ロット番号は? ソフトは実物ですか、ダウンロードですか? 最低でもこれらの内容を理解して、調べてから質問してください』


 

「どうだ、昨日あんたがわたしにやってくれた嫌味を、そのまま返してやったわよ! これがDQN返しってやつね!」


「あの、お嬢様。そのへんの情報、まったく関係ないですよ」


「関係あろうがなかろうが、どっちでもいいのよ。こいつに因縁つけられればいいんだから」


 

 もろきゅう:

『しつれいしました。本体は2015年製です。

 ネットでダウンロードしたソフトです。

 カラーは黒、ロット番号はJCX15839です。

 すみません。お手数をおかけして申し訳ありません』

 


「ふふ……もうひたすら頭を下げて、みっともなくすみませんを連呼するだけね。こいつは完全に奴隷に成り下がった、哀れな敗北者よ」


「お嬢様、騙されてはいけません。まだこの『もろきゅう』は牙を剥いていますよ」


「え?」


「敵の返答の、各行一文字目をよく見てください」


「一文字目……? えーと、し・ネ・カ・す……『死ねカス』!?」


「縦読みというやつですね。レスバトルの古典的戦術です」


「こ、こいつーーー! こざかしい真似を!!! 危うく騙されるところだったわ!!!」


 紅子は、また怒って返答を書き込んだ。


 

 紅の海豚:

『そんな縦読みに気づかないと思いましたか? 一秒で看破しましたよ』

 

 もろきゅう:

『そんなつもりはありませんでした。偶然です。許してください』

 

 紅の海豚:

『駄目です。気分を害しました。もう教えません』


 

「なーんて、最初から教える気なんてなかったけどね! これでわたしの完全勝利よ!」


 だが、『もろきゅう』は意外な反撃を繰り出してきた。

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