第22話 質問サイトで頼られたい①
「……それにしても、ほんとムカついたわね、あの『もろきゅう』って奴は。質問サイトってあんなクズばっかなの?」
DVDを楽しんだ翌日、紅子は思い出したように不満を吐き捨てた。
「掲示板やSNSは、基本的に対等の立場で雑談することを目的とした遊び場ですけれど、質問サイトというのは、質問者と回答者で明確に立場の差がありますからね。教える側という優位にふんぞり返って、パワハラしてくる輩がわんさかいるのですよ」
今日も今日とて、イルカが解説する。
「なにが優位よ。リアルで教師やコンサルタントになる能力がないから、あんなところで初心者狩りしてんでしょうが。負け犬どもめ」
そんな連中のパワハラ被害にあっている人間が、自分以外にも沢山いるのだろう、なんて可哀想に――と紅子は考える。
「もしわたしが教える側なら、あんなクズにはならないわ。どんな質問にも優しく丁寧に……」
そこまで言って、紅子は思いついた。
「そうだわ! わたしも回答者になろっと!」
「ええ!?」
「良貨は悪貨を駆逐する、よ。イルカ」
驚くイルカに、紅子は己の素晴らしい計画を披露する。
「わたしが優しい回答者になって、みんながわたしを頼るようになれば、昨日の『もろきゅう』みたいなクズは、見向きもされなくなって滅びるのよ」
「……素晴らしいアイデアですが、そもそもお嬢様に、質問に答えられるだけの知識はあるのですか?」
「この炎城寺紅子は美人で天才で金持ち、リアル最強よ。イルカ、あんたはネット最強なんでしょ? わたしたち二人なら、どんな質問にも対応できるわよ」
「はあ……」
紅子はさっそくパソコンを起動し、知恵フクロウのサイトで回答者としての登録を始めた。
「紅子とイルカ、二人合わせて『紅の海豚』をハンドルネームにするわよ」
「わたしの名前を漢字で書くのはやめてくださいよ」
会員登録は数分で完了し、紅子は回答待ちの質問欄を物色し始めた。
「さあ、最初の質問はどれにしようか……お、これがいいわね。カテゴリは『インターネット関係・ネットサービス』ね。イルカ、さっそくあんたの出番よ」
「はいはい」
「質問者は『†斬人―闇纏う咎人の剣士―†』くんね」
†斬人―闇纏う咎人の剣士―†:
『こんにちは。僕は東京都の小学四年生です。週刊少年ジャンクの漫画、“撃滅の刃”の最新刊を無料で読めるサイトはありませんか』
「イルカ、わかる?」
「えー、それはまあ、わかりますけど……」
「よっしゃ! じゃあ教えなさい!」
「え、それはやめておいたほうがいいですよ」
「なに言ってんのよ! あんたこの子を見捨てる気? この子、他の回答者からは『死ね』とか『消えろクソガキ』とか酷いことを言われてるのよ! わたしたちが、この悩める子羊を導いてあげるのよ!」
「はあ……まあ、『漫画村スーパーデラックス3NEO』というサイトで、少年ジャンクの漫画は大体見れますけど。あ、URLはhtttp:kaizokuwarewarecopycopyhanzai.jpです」
「よし!」
紅の海豚:
『このサイトで見れますよ。わたしは親切ですからURLも貼ってあげます。
htttp:kaizokuwarewarecopycopyhanzai.jp
お礼はいりません。人として当然のことをしただけですので、この程度のことで恩に着せる気はまったくありません』
†斬人―闇纏う咎人の剣士―†:
『ありがとうございます!』
「よかったよかった、†斬人―闇纏う咎人の剣士―†くんも喜んでくれたわ。……あ、ベストアンサーに選ばれたわよ! それに、なんかポイントもくれるって! うーん、やっぱりいい事すると自分に返ってくるものなのね!」
紅子が悦に浸っていると、知恵フクロウの運営からメッセージが届いた。
知恵フクロウ運営:
『あなたの回答が不適切であると報告を受けました。今後、改善が見られない場合は、アカウントの停止を検討します』
「なんでよ!?」
「あーやっぱり、こうなりましたか」
「やっぱりって、なによイルカ」
「わからないのですか。お嬢様がさっきしたことは犯罪幇助ですよ。海賊サイトを紹介したんですから」
「海賊? これ『オンピース』じゃなくて『撃滅』の話なんだけど」
「そうじゃありませんって……。簡単に言えば、あのサイトは出版社の許可を取らずに漫画を掲載しているんです。その行為自体はもちろん犯罪ですし、それを利用することも、紹介することも罪に問われかねないのですよ」
「え!? じゃあイルカも†斬人―闇纏う咎人の剣士―†くんも逮捕されちゃうの?」
「なにさり気なく自分を除外しているんですか。……まあ、これくらいで警察だの逮捕だのという話にはなりませんが、あまり繰り返すと、どこのネット社会からも追い出されますよ」
イルカがやれやれとため息をつく。
「はあ……それにしても、小学生が平気で海賊版サイト使って漫画を見る時代になったのですねえ……嘆かわしいことです」
「その嘆かわしい海賊版のサイトを、あんたはどうして知ってたのよ?」
「お、なんですかお嬢様、レスバトルですか。銃の作り方を知っているだけで罪ですか? 麻薬の栽培方法を知っていれば犯罪者ですか? 知識がある、というだけで罪に問われるなど、どこの国の法律にもありませんよ? なにか反論ありますか?」
「あーもう、分かったわよ」
紅子は手を振って、イルカの早口を止めた。
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