第16話 SNSレスバトル③
炎城寺紅子@Redfaire
『わたしを八百長あつかいするなよカス! わたしのパンチは世界最強だから、相手が銃持ってても勝てるわ!』
「は? なによこれ?」
「まずはジャブを一発ってことです」
「いや、何よこの幼稚で頭悪い文章は!?」
「いつものお嬢様の書き込みを参考にしたんですがね……ま、とりあえず相手の反応を待ちましょう」
「これ、結局ハイジャック犯捕まえたことを見せつけて、わたしの強さを証明しようってことなんでしょ? それは通用しないって、あんたが言ったんじゃない」
「いきなりそれをやっても通用しないでしょうね。ですから、まずは敵を罠にはめる必要があるんです」
「?」
「お、返信が来ましたよ」
ヴァンス・D@SojoSS
『なんか変な人が絡んできちゃったよ……w どんな頭してたらこんな幼稚園児みたいな発言が飛び出すんだろw』
炎城寺紅子@Redfaire
『幼稚園児とはなんですか? 馬鹿にしないでください』
「なんでさっきはタメ口で文句付けたのに、今度はいきなり丁寧口調になるのよ。情緒不安定過ぎない?」
「だから、お嬢様のいつもの書き込みがこうなんですって」
ヴァンス・D@SojoSS
『いるんだよなあ、こういう人。漫画やゲームのフィクションそのまま信じ込んじゃって、格闘家は武器持った素人より強いとか思い込んでる奴。もうその思い込みが、あなたが素人だって証明なんですよねw』
ヴァンス・D@SojoSS
『あなたは力道山を知っていますか? さすがに(八百長さんでも)知ってるとは思いますが……w 伝説的な強さを誇ったプロレスラーの最後は、格闘家でも何でもないヤクザのナイフに刺されて死亡したというものです』
ヴァンス・D@SojoSS
『現代でも、ほとんどの格闘家は相手が武器を持っていたら勝てないと断言しています。格闘技とは、武器を持った相手と戦う技術ではないのです。まあ格闘家じゃないお人形さんにはわからないんでしょうけどねw』
「なによこいつ? 議論はしませんとか言ってたくせに、めっちゃ喋ってんじゃん」
「負ける議論はしたくないけど、勝てる議論なら大喜びでするってことですよ」
炎城寺紅子@Redfaire
『ほかの奴の事なんて知るかよ! わたしは勝てるんだよ!』
ヴァンス・D@SojoSS
『いや無理だってwww ここまで説明してあげて理解できないのかな?』
炎城寺紅子@Redfaire
『なら証明してやるよ! 今から三日以内にわたしが銃に勝てるって証拠見せてやるからな! わたしの言うことが正しければお前、切腹しろよ!』
ヴァンス・D@SojoSS
『いいですよw 嘘だった場合、あなたが切腹するならねwww』
炎城寺紅子@Redfaire
『いいよ』
炎城寺紅子@Redfaire
『はい。これで契約成立ね』
ヴァンス・D@SojoSS
『は? なに言ってんの』
「はい、ここです」
「え、なにが?」
「ここで、お待ちかねの警視総監賞の出番ですよ」
イルカはデジカメで手早く賞状の写真を撮り、パソコンに取り込む。
その写真と、紅子が示したニュースサイトへのリンクを合わせて、ヴァンス・Dへと叩きつけた。
炎城寺紅子@Redfaire
『はい証拠。これでおまえ切腹だなwwww』
「……何も言ってこないわね」
イルカの書き込みから十分たっても、ヴァンス・Dはなんのツイートも寄こさなかった。
「効いてるってことですよ。今は必死になって、お嬢様のハイジャック犯確保の功績のあら探しをしてるんでしょう。無駄な努力ですがね」
「そりゃそうよ。本物なんだもん」
「さて。わかりましたか、お嬢様」
イルカは、紅子の顔を見上げて語り出した。
「最初に言ったように、いきなり警視総監賞を見せつけていても、こいつは適当に言葉を濁して逃げるだけです。それを防ぐには、まず相手に自分が優位に立てると錯覚させ、議論の土俵に引きずり込むこと。そして、これまた相手に負けるはずがないと錯覚させ、逃げ道のない約束をさせたうえで言質をとること。今回は嘘つきが切腹するというものですね。これだけの準備をしたうえで、ようやく切り札は最大限に効力を発揮するのです。これがレスバトルの基本戦略です。ご理解いただけましたか?」
「……え、あ。うん……完璧に理解したわ」
「よろしい。では、とどめといきましょうか」
「とどめ?」
「はい。こうするんですよ」
イルカは、ヴァンス・Dとの一連のやり取りを改めてツイートした。
炎城寺紅子@Redfaire
#拡散希望
『ヴァンス・Dが切腹するようです。みんなで彼の最期を見届けましょうwww』
『これマジ!?』
『ヴァンス・Dってウザかったからマジでうれしい』
『あいつ死ぬんだwww』
『おもっくそ負けてんじゃんww炎城寺に論破されるってどんな馬鹿だよwww』
『切腹! 切腹!』
「これでヴァンス・Dのアカウントは大炎上ですよ」
「ってことは……わたしの勝ちってことね!」
紅子は高らかに拳を突き上げた。
「いや書き込んだのは全部わたしで……まあ、いいでしょう。メイドの勝ちは主人の勝ちですからね」
イルカは立ち上がって、紅子に席を譲った。
「ふふーん。それで、このヴァンス・Dの野郎はいつ切腹するのかしら?」
「えっ」
「できれば切腹シーンの動画とかあげてほしいわね。このわたしに牙剥いたバカがどんな哀れな死に方をするか、全世界へ発信されればアンチ共も震え上がるでしょ」
紅子は本気であった。
「いえ、あの。お嬢様。さすがに本当に切腹なんてしないですよ」
さすがのイルカも狼狽して言った。
「は? なに言ってんのよ。どっちかが切腹するって約束でしょ。このヴァンス・Dは、はっきりそう言ったし、あんただって『契約成立』って書き込んだじゃないの。今さら冗談でしたー、なんて通ると思ってんの?」
「いやいやいや! こんなのただのネットのおふざけですから! 本気で死ぬわけないでしょ!」
「ああああ!? 本気で殺さなきゃわたしの怒りは収まらないのよ! まさか、ヴァンス・Dの奴も、このまま逃げられると思ってんじゃないでしょうね!」
紅子はそう言って、絶賛炎上中のヴァンス・Dへ向けてツイートを書き込んだ。
炎城寺紅子@Redfaire
『おいヴァンス・D! お前ちゃんと切腹するんだろうな! いまさら謝っても許さないからな! 絶対切腹しろよ! 絶対だぞ!』
炎城寺紅子@Redfaire
『なんとか言えよ! 無視すんな! お前約束したよな!? わたしが銃に勝てる証拠見せたら切腹するんだよな? おい!!!』
炎城寺紅子@Redfaire
『無視すんなって言ってんだろ嘘つき! お前が切腹しないなら、わたしが殺しに行くからな! どこに住んでんだよ住所さらせよ!!! おい!!!』
炎城寺紅子@Redfaire
『おまえ絶対殺すからな!!! 覚悟しとけよ!!!』
【このアカウントは凍結されました】
「………………なによこれ」
マウスを連打しながら、いっこうに操作できなくなった画面を見て紅子がつぶやく。
「またアカBANされたみたいですね」
「なんで?」
「この状況で、本気で不思議そうな顔ができるお嬢様に『なんで』と聞きたいですよ」
「だって、こいつは自分で切腹するって言ったのよ……。わたしは約束を守れって、当たり前のことを言っただけなのに……」
紅子は顔を真っ赤にして、震える声を絞り出す。
「当たり前じゃないですから、それ。自殺教唆ですから。まあ普通に殺害予告もやっちゃってますけど」
「なんでだよ! 悪いのはこいつの方なのに! うぎいいいーーーー!」
紅子は怒りの叫びと共に机を殴りつけた。
「あ、もうキーボードを破壊しないだけの分別は付けられたようですね。お嬢様にしては凄い進歩ですよ」
もうこんな光景には慣れきってしまったイルカは、呑気に言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます