第15話 SNSレスバトル②

「わたしが今一番ムカつくアンチがこの野郎よ。ほら、また今日もわたしのことディスってやがるわ」

 


 ヴァンス・D@SojoSS

『ってわけで、業界としては話題になって注目されるお人形が欲しかったんだよ。だから炎城寺っていう、十代の女の子のチャンピオンを作り上げたわけ。俺なんかには見え見えの仕込みなんだけど、ま、一般人は素直に信じちゃうんだろうねw』

 

 ヴァンス・D@SojoSS

『最近の風潮を受けいれて格闘技の大会も男女の区別を撤廃しました、そしたら女が優勝しましたー。とかもうね、わざとらしすぎるんだよね。で、その女はアジア人だから、LGBTもBLMもとりあえずご機嫌とれるってわけ。ほんと、こんな八百長にどうしてみんな騙されちゃうかなあ……w』

 


「ああああ! マジでうっっっっざいのよ! こいつ!」


 紅子はTwiterの画面を睨みつけて叫んだ。


「どうよイルカ!?」


「はあ。まあ、たしかにこのヴァンス・Dって奴の口調は、めちゃくちゃうざいですけど」


 イルカは、とりあえずの相槌を打ちながら答えた。


「でも、こいつは直接お嬢様に絡んで、煽って来たわけじゃないんでしょう」


「どっちでも一緒よ。こんなクソみたいな妄言でわたしを中傷する奴は、絶対に潰してやらないと」


「どうやって潰すんです? まさか、また『住所晒して勝負しろー』とか言う気ですか」


「ふん。そう言ったところで、クズ共はなんだかんだ言い訳して逃げるってのは、もうわかってるわ。だったら真正面から口論して、論破してやろうじゃない。頭脳戦よ」


「頭脳戦て……お嬢様の最大の弱点は、頭が悪いことじゃないですか。五段階評価でいえば、間違いなくE判定ですよ」


「わたしには、高校行くより大事なことがあったのよ」


「学歴以前の問題なんですが。中学でも、体育以外でまともな成績取ったことあります?」


「うるさいわね。んなこと、どーでもいいのよ。とにかく、このヴァンス・Dを論破する武器はあるんだからね」


「武器?」


「これよ、これ」


 紅子は、先ほどイルカに見せつけた警視総監賞の賞状を持ち出してきた。


「こいつが今朝手に入ったのはグッドタイミングだったわ。この賞状は、『炎城寺紅子は銃持ったハイジャック犯より強いんです。実際に勝ったんですよ』って、警察のトップが保証している証拠でしょ?」


「まあ……確かにそうですね。警視総監賞が強さの証明って発想がもうなんか、さすがお嬢様ですよ」


「この警視総監賞の写真と、さっきのニュースサイトへのリンクを張って、ヴァンス・Dの野郎に見せつけてやるのよ。『どうだ、わたしはハイジャック犯を倒したんだぞ。これも八百長か? おい、なんとか言えよバーカバーカ』ってね。それでこいつは赤っ恥、何も反論できなくなって泣き出すこと間違いなしね。今までドヤ顔で偉そうなツイート連発してたぶん、ダメージも大きくて、Twiter引退しちゃうかもね。ふふん」


 紅子はドヤ顔で偉そうに計画を語った。


 だがイルカは、その計画をにべもなく切り捨てた。


「三十点」


「は?」


「そんなことでは、このヴァンス・Dを煽って悔しがらせることなど、到底出来ませんよ」


「どうしてよ!?」


「お嬢様がそのハイジャック犯確保の功績を突きつけたところで、こいつは『これも仕込みだろ』『捏造』『そんな賞状は偽造』とか言い張るだけです」


「ハア? 警察が事件を認めてんのよ、捏造なわけないじゃない。ちゃんと調べれば、仕込みだのお芝居だのじゃない、本物のハイジャック事件だってことも、わたしが銃持った男六人をぶちのめしたことも、疑いようなくはっきりわかるはずよ」


「その『ちゃんと調べれば』ってのが甘いんです。ネット民は『ちゃんと調べる』なんてしません。自分に都合のいい事象の断片だけを見て、不都合なこと・気に食わないことは全て目を閉じて無視します」


「はあああああ!?」


「しかも、このヴァンス・Dのプロフィールを見てください。『自分は個人の感想を述べてるだけなので、議論する気はありません。文句つけて絡んでこないでください』なんて書いてあるでしょう。ちゃっかり逃げ道を用意してるんですよ」


「なによそれは! お前はわたしのこと思いっきり文句つけてんだろうが!」


「直接リプライ送ってディスってるわけじゃないから、文句ではなく『個人の感想』ってことなんでしょう。虫のいい話ですがね」


「ふざけんな! 直接言わなくたって名誉毀損は成立するのよ!」


「おお。よく知ってましたね。お嬢様にしては凄いですよ」


「そもそも、なーにが『議論する気はありません』よ、このカスが。議論になったら勝てないだけだろうが」


「おっしゃるとおり。そこまでわかるなら、お嬢様が警視総監賞を叩きつけたときの、このヴァンス・Dの反応も予想がつくでしょう。そうしたところで、こいつは『あー変なのに絡まれちゃった』『バカと議論はしたくないからブロックしまーす』って言って、逃げるだけです」


「なんって卑怯な奴よ! このクソ野郎!」


「いえ、だから前にも言ったでしょう。レスバトルは卑怯が当然なんですよ」


「あーもう! それじゃあこいつを論破して悔しがらせるなんて、絶対無理じゃない! こっちがどんな証拠を用意しても、無視して逃げ出すんじゃどうしようもないわよ!」


「いえいえ、そうとも限りません。ようは攻め方の問題なんですよ」


「攻め方って?」


「ふふふ。ここはわたしが、レスバトルのお手本というものをお見せしましょう」


 イルカは紅子に代わってパソコンの前に座った。


「それで、一体どうするのよ」


「お嬢様のアカウントで書き込むことになりますが、よろしいですか?」


「こいつを倒せるならね」


 紅子は憎々しげにヴァンス・Dのアイコンを指さす。


「はいはい、お任せください。わたしにかかれば、こんな意識高い系一年生の僕ちゃんなんて瞬殺ですよ」


 イルカは高速でキーボードをタイピングして、炎城寺紅子Twiterからヴァンス・Dへリプライを送信した。

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