第4話 特殊災害対策室

「剣を手にして振るったことや、あの黒い甲冑の怪物が夜叉って名乗ったまでは覚えてるけど、それから俺どうなったんだ?」


 体を起こして頭部を右手で掴んでいると、静かに病室のドアが開いた。病室に入って来たのは出雲と美桜の武器を回収し、車に二人を入れた黒服の男性たちに指示を出していた男性と女性であった。二人とも黒いスーツを着ており、女性の方はスカート型のスーツであった。


「気分だどうだい? 傷は殆どなくなっていると思うが」

「そのままで大丈夫ですよ。傷はないとはいえ、まだ体は痛むと思いますから」


 部屋に入って来た女性が、態勢を変えようとした出雲にそのままでいいですよと言った。出雲は男性を見ると、声に自信が含まれているどこかリーダー気質を感じていた。また、女性の方は凛々しい声をしている秘書のようなイメージだと感じていた。


「あ、ありがとうございます。体は傷もなく大丈夫ですけど、なんで傷が消えたんですか?」

「それは、君が使った剣に関係するんだ」

「使った剣ですか? それはどういう意味なんですか?」


 そう出雲が男性に言うと男性が廊下に移動をし、廊下に待たせている部下から長方形の箱を受け取った。その箱は白色の箱であり、何かが入っているようであった。


「これを見てくれ。君が使った剣じゃないか?」

「た、確かにこの色や形はあの時に使った剣です……」


 出雲は恐る恐るその剣の握りを触ると、その剣が淡く光った。その様子を見ていた男性と女性は、目を見開いて驚いていた。


「やはり適合者だったか。君はこの剣に選ばれたようだ」

「早速手続きを始めます」

「え、選ばれたってどういうことですか!?」


 出雲は驚いている最中、女性が床に置いていた鞄からクリアファイルに入れられている数種類の書類を取り出していた。


「おっと、自己紹介がまだだったな、俺は東堂大和だ」

「私は紫水紅です。よろしくお願いいたします」

「あ、俺は黒羽出雲です。よろしくお願いします」


 出雲が自己紹介をすると、大和が知っていると笑顔で言う。


「知っている。君が気絶をして目が覚める時間に調べさせてもらった。ごく普通の高校生で、父母妹の4人家族である。父親は今は海外出張中であると」


 その言葉を聞いた出雲は目を見開いて驚いてしまう。どうして知っているのか、どうやって調べたのか理解ができなかった。


「我々は政府直轄の特殊組織である。名前は世間的には秘密であるが、特別に教えよう」

「組織名は特殊災害対策室です。特別な組織であり、この度の怪物の出現の伴って表舞台に立って動きました」

「そ、そうだね……俺が言おうとしたのに……」


 大和は肩を落として落ち込んでしまったようである。紅はそんな大和に対して、元気を出してください室長と言った。


「室長って、偉い人なの?」

「偉いよ。組織で一番偉い」

「現状はトップですね」


 そう聞いた出雲は、急に緊張をしてしまったようである。その様子に気が付いた大和は、出雲の左肩を優しく掴んで、緊張することはないと言った。


「そこまで緊張をすることはないぞ。上下関係はあれど、俺はそこまで強制はしないし、そんなことをしていたらお互い言いたいことも言えないからな」

「あ、ありがとうございます……」


 出雲は息を吸って緊張を和らげていると、紅が書類にサインを頂いてもいいですかと出雲に言った。


「そんなの勝手には出来ないですよ……親の承諾を得ないと……」


 出雲がのその言葉を聞いた大和は、死がすぐ隣にあるからなと呟く。紅は書類の提出は後日でもいいので、お考え下さいと出雲に言った。


「分かりました……あ、美桜でしたっけ? あの子は無事なんですか?」

「篁君のことかな? 傷は深かったが、無事だ。今治療中だが、元気にいるようだ」

「よかった……俺は助けられたんですね……」

「美桜さんからお話は伺いましたが、結構邪魔をされていたようですね。怒っていましたよ?」


 そう言われた出雲は、会った時に謝りますと落ち込んでいた。すると、紅が左腕に付けている時計を見て大和にそろそろ時間ですと話しかけた。


「もう時間か。名刺を渡すから何かあればそこに書かれている番号に電話をしてくれ。ちなみに、明日に退院できるからな」

「では、失礼します」


 出雲にそう言った二人は、静かに病室から出て行った。大和と紅が病室を出てから1時間が経過をすると、廊下を慌てながら走る音が聞こえてきた。走る音が出雲のいる病室の前で止まると、勢いよくドアが開いた。


「ちょっと!? 大丈夫なの!? 空から降ってきた怪物に遭遇したって聞いたよ!」

「琴音落ち着いて。出雲が驚いちゃうでしょ」

「あ、ごめんねお兄ちゃん」

「大丈夫だよ」


 出雲がそう言うと、琴音がベットの左横に置かれているパイプ椅子に座った。楓は病院内のコンビニで買ったと思われるビニール袋を持っており、部屋内にある小机に置いた。


「寝てたみたいで晩御飯下げちゃたらしいから、おにぎりとか買ってきたわよ。食べれそうなら食べてね」

「ありがとう。ちょうどお腹が減ってたんだよ」


 出雲は琴音におにぎりを取ってもらい、食べ始めた。そのおにぎりは昆布が中に入っているようで、出雲はゆっくりと食べ進める。


「お腹は鳴ってなかったけど、いざ食べるとサクサク食べられるもんだね」

「そりゃそうよ。意外とお腹は空いているものよ?」

「うんうん。私ももらっちゃうねー」


 琴音がビニール袋の中から手巻おにぎりを一つ取って食べ始めた。楓は琴音を叱ろうとするも、出雲がいいよと言って楓は叱るのを止めた。


「ありがとうお兄ちゃん!」

「一緒に食べよう。その方が美味しいよ」

「そうだよね! 美味しい!」


 琴音が美味しそうに食べていると、出雲がお茶を取ってとビニール袋の中に入っているペットボトルを取ってと琴音に言った。


「はーい。これでいい?」

「うん、ありがとう」


 出雲はジャスミン茶を琴音に取ってもらい、それを飲み始めた。出雲は飲みながら、この空間が幸せだと感じていた。すると、楓が体は大丈夫なのと出雲に聞いた。


「うん。なんか怪我があまりなくて一日入院すれば大丈夫みたい」

「ならよかったわ。突然警察から連絡があって、入院したって聞いたから驚いたわよ。怪物に襲われたって聞いたから凄い心配してたわ」

「心配かけてごめん。助けないといけない人がいて、助けようとしたら吹き飛ばされちゃって」


 怪物と剣で戦ったことや、美桜のことを伏せて話した。先ほど来た大和たちのことは言わずに、怪物と遭遇をして吹き飛ばされたことだけを話した。

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