第3話 戦う力

「戦う力がないあなたは早く逃げなさい! 守って戦う程、私は器用じゃないわ!」


 ビルの外にいる出雲に対して美桜は逃げてと叫ぶも、出雲はそこから動かなかった。再度ここまで来たのに逃げるなんてと、出雲はそう考えていた。だが、美桜に言われた通り戦う力がないのも確かであった。


「俺に力があれば……戦う力があれば……」


 黒い甲冑の怪物と戦う美桜を見ながら、出雲は力が欲しいと何度も頭の中で考えていた。


「そうだよな……戦う力がない俺がいても邪魔なだけだよな……運転手の男性に頼むと言われても、何をすればいいのか……」


 俯いている出雲だったが不意に耳を劈くような金属音が聞こえると、自身の右横の地面に美桜が持っていた刀が突き刺さった。その刀を見た出雲はビルの中で戦っている美桜を見ると、右手を抑えながら悲痛な表情を浮かべていた。


「美桜!」


 出雲は美桜と叫びながらビルの中に駆けだした。そして、美桜を奥に突き飛ばすと黒い甲冑の怪物が出雲の腹部に刀を突き刺した。そして、引き抜くと刀を切り上げて出雲の体を斬った。


「ぐぅ……がはぁ……」

「な、なんであんたが!? どうして!?」


 美桜はゆっくり立ち上がると、刺されて斬られている出雲の体を抱きかかえた。


「どうして庇ったの!? あれほど逃げろって言ったのに!」

「頼むって言われたし……逃げたかったけど……君がピンチな時には助けたいと思っていたから……」


 そう出雲は言うと血を吐き出して何度も咳き込み始めた。美桜は遠くに飛ばされた刀の方向に右手を向けると、刀が勢いよく美桜の方向に飛んできた。


「犠牲を無駄にしないわ! 私が必ずお前を倒す!」


 美桜が刀を手にして、目の前にいる黒い甲冑の怪物と対峙をすると、黒い甲冑の怪物は刀を構えて美桜を攻撃し始める。切り上げ切り下げ、斜め切りと多くの攻撃をしてくる黒い甲冑の怪物に対して、美桜はその攻撃の全てを捌いていく。


「もうそんな攻撃は効かないわ! 私はあの人の犠牲を無駄にしない!」


 そう言いながら美桜は黒い甲冑の怪物の攻撃の隙をついて、左腕を吹き飛ばした。その攻撃を受けた黒い甲冑の怪物は、声にならない悲鳴を上げて勢いよく美桜の腹部を蹴り飛ばした。


「がふ……」


 腹部を抑えながら転ばずに態勢を整えると、目の前に黒い甲冑の怪物がいた。いつのまに目の前に来たのか理解ができなかった美桜は、刀で攻撃を防ごうとする。だが、刀を左に弾かれるとそのまま斜め左下に斬られてしまった。


「ぐぅ!? 急に動きが早くなって……」


 美桜は突然動きがよくなった黒い甲冑の怪物を睨むと、血を大量に吐き出してしまった。出雲はその美桜の姿を見ると、大丈夫かと小さな消え入りそうな声で呟いた。しかしの声は美桜に届くことはなく、美桜は地面に倒れてしまった。


「私がこんな怪物なんかに……ごめんなさい……約束……守れなかった……」

「み……お……俺が守る……」


 約束を守れなかった。そう小さな声で言いながらコンクリートの地面に膝から倒れ込む美桜。その姿を見た出雲は体に鞭を打ってゆっくりと立ち上がった。


「俺は戦う力がない……でも……今はお前に立ち向かうしかないんだ!」

「ッ――」


 斬られているにもかかわらず、立ち向かってくる出雲に対して黒い甲冑の怪物は恐怖を感じていた。しかし、黒い甲冑の怪物は右手に握っている刀を持つ手に力を入れて、構えた。


「オマエハ……ナンナンダ……ドウシテ……タチアガル……」

「どうしてって、そりゃ決まってる。頼まれたからじゃない……俺自身の意思で守りたいと思ったからだ!」


 片言で言葉を発し始めた黒い甲冑の怪物に対して、出雲は右の拳を放って殴りかかろうとした。しかし、黒い甲冑の怪物は出雲の拳を避けて腹部を右足で蹴った。出雲はその攻撃を受けて、ギリギリ倒れずに立つことが出来た。


「ナニモチカラガナイ、オマエが、ナニヲスルツモリダ?」

「決まってるだろ? 力が無くても、戦うことはできるんだ!」


 出雲がそう叫ぶと、どこからか爆発音が聞こえた。そして、出雲の眼前に白色と青色の2色のコントラストが綺麗な剣が現れた。黒色の握りの部分を右手で掴んだ出雲は、剣を構えて黒い甲冑の怪物に向かって振るった。


「ソンナコウゲキ――!?」


 出雲の攻撃を受けた黒い甲冑の怪物は驚いた。素人の拙い攻撃だと思っていたのだが、その剣での攻撃が重かったからである。片腕では受け切れないその重い攻撃を受けた黒い甲冑の怪物は、一度後方に退避をした。


「ソノツルギのチカラカ……」

「想いは力になるんだ! お前を倒すまで、俺は死なない!」


 そう出雲が叫ぶと、何台もの黒塗りの車がビルの前で停止をした。その車からは黒服の男性が集団が銃を構えながら出て来た。


「シオドキカ……オマエ……ナマエハナンダ?」

「俺は黒羽出雲だ!」

「ソウカ……ヤシャ、オボエテオケ……」


 そう黒い甲冑の怪物は掻き消えるように姿を消した。出雲はその消えた夜叉と自身の名前を言った黒い甲冑の怪物のいた場所を見ると、視界が歪み地面に倒れてしまった。倒れている出雲と美桜を見た黒服の男性たちはついに始まったかと呟いていると、遅れてやって来た筋骨隆々の清廉な顔をしている男性が始まったようだなと小さな声で呟いていた。


「今は子供に戦わせるしかないが、いずれ大人も戦えるようになれば……」

「そうですね。いつの時代も子供にばかり負担を強いています。大人も負担を背負う時がもうすぐ来るといいですね」


 清廉な顔をしている男性の後ろから現れた、髪を束ねて眼鏡をかけている細身の女性が男性に話しかけた。その女性は前に出ると、黒服の男性たちに美桜と出雲を車に乗せてと命令した。


「分かりました。すぐに」

「武器は指定されている箱に入れます」


 分担をして車に乗せていく黒服たち。出雲は気を失っているので、何をされているのか分からない状態である。出雲は倒れている最中、夢を見ていた。その夢は、美桜に邪険にされつつも共に戦う夢であった。出雲は美桜に頼られていると嬉しいと感じており、美桜が危険な時は常にフォローをすることを意識しているようであった。


「俺が……必ず……うぅ……」


 寝言を言いながら目が覚めた出雲は、目に入った白い天井を見てどこだここはと呟く。


「頭が痛いし、体も……」


 痛む体に鞭を打って体を起き上がらせると、窓が右側に見えた。出雲は景色を見ると、空が暗いことに気が付いた。そして、周囲を見渡すと寝ているベットや部屋の内装を見て自身が個室の病室にいるのだと理解をした。


「俺は病院にいるのか。そういえば、体を斬られたのに傷がない……そんな簡単に治るものだっけ?」


 出雲は自身の体を見ていると、斬られたはずの傷がないので不思議だと感じていた。

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