第2話 助けたい気持ち
「やられたって、どういうこと!? 何があったの!?」
「鉄パイプが運転手の男性の腹部に突き刺さっていたんだ……それで最後に……俺に君を頼むと……」
俯きながら美桜に言うと、美桜が何もできない君に何を頼むって言うのと出雲を睨みながら強めの口調で言った。
「怪物がいたるところにいて、私以外の人も対処しているの! 駅の方を見て! 警察や自衛隊も戦っているでしょ! みんな守るために戦っているの! 力がないあなたは逃げて!」
「お、俺は……」
瓦礫が崩れる音が聞こえ、遠くからは叫び声と銃声が聞こえてくる。人々の悲鳴が響き渡るこの一帯に、出雲はただただ立ち尽くすしかなった。逃げたいが、放っておけない。怪物は怖いが、頼むと言われたから逃げたくとも逃げられない。
「お、俺は……」
出雲が言い淀んでいると、目の前に黒い甲冑を着ている武者のような怪物が右手に刀を持って静かに歩いてきた。その怪物を見た美桜は、強い怪物ねと刀を構えて態勢を整えた。出雲は迫って来る怪物に恐怖を感じつつも、どうすればいいのか整理がつかず動けない。
「もう邪魔! 早く消えて!」
「ぐぁ!?」
美桜は出雲の腹部を蹴り、吹き飛ばした。すると、美桜が吹き飛ばしたと同時に、黒い甲冑の怪物が刀を美桜に振るった。
「うぐぅ……攻撃が重い……やっぱりこの怪物が……リーダー的存在……」
美桜は連続で斬りかかってくる黒い甲冑の怪物の攻撃をギリギリの状態で防いでいた。周囲には刀と刀、金属同士が衝突し合う音が響き渡っていた。避難をしている人は戦っている美桜に頑張れと応援をし、警察や自衛隊は助けを求めている人を救いつつ、黒い甲冑の怪物以外の怪物と戦い続けていた。出雲は何度か咳き込みつつ、蹴られた腹部を擦っていた。
「げはっ……強く蹴りやがって……」
出雲は遠くにいる戦っている美桜を見ながら、その場に立ち尽くしていた。すると、スマートフォンに通話が入った。出雲はスマートフォンの画面を見ると、母親から連絡が来たようである。出雲はその通話に出ると、焦っている母親の声が聞こえてきた。
「ちょっと! 無事なの!? 今日行くって言っていたライブ会場の側で、地震があったんだって!? それに何か不可思議なことも起きてるって!」
「だ、大丈夫だよ! 俺は無事!」
母親からの電話によって落ち着きを取り戻すと、母親の後ろから妹の声が聞こえていた。妹はお兄ちゃん生きててよと何度も叫んでいるようで、出雲は母親に無事だと伝えておいてと言って、通話を終えた。
「あの子に言われた通り逃げるか……」
出雲は倒れている人たちに声をかけながら、息をしている人の肩を支えて駅前広場に仮設されている救護所に連れて行った。
「まだ息をしています! お願いします!」
「分かりました! そこの地面に敷いているシートの上に寝かせてください!」
そう言われた出雲はシートの上に静かに寝かせた。出雲が来た駅前では、怪我をしている人や、指示をしている人、早く手当てをして欲しい怪我をした人などでごった返しており、ある種の地獄絵図となっていた。
「いつまで待たせるのよ! 子供が怪我をしているのよ!」
「こっちも怪我をしているんだぞ!」
「こっちだってかなり待たされているんだ! 静かにしろ!」
多くの人々が多大なストレスを受けており、救護所にいる人々が救護をしている人たちに罵声を浴びせていた。救護をしている人たちは近場の病院から支援しに来ている病院職員や自衛隊が主軸となって救護を行っている。出雲は救護所にて配給で配っているお茶のペットボトルを一つ貰うと、ベンチが空いていたので座ることにした。
「俺がこうしている時にも、あの子は戦っているんだろうな……」
出雲はそう呟いていると、駅前にあるビルに設置してある大型テレビが突然臨時ニュースに切り替わった。
「臨時ニュースをお届けします。午前11時30分頃、日本各地で突然空の空間が割れ、そこから怪物が降り注ぎました。それは日本各地において合計10個の裂けた空間から、おおよそ合計40体の怪物が出現したとされています!」
「40体も出現してたのか……あの子みたいな存在が他の地域にもいるのかな?」
出雲は大型テレビに流れるニュースを見ながら、戦っている美桜と呼ばれた少女のことを考えていた。あの黒い甲冑の怪物と戦っているのか、既に倒して他の怪物と戦っているのか定かではないが、出雲はここで避難していていいのかと考えていた。
「俺には戦う力がないけど……あの子に逃げてと言われたけど……運転手の男性に頼むと言われた……だから!」
だからと叫んだ出雲は、覚悟を決めた顔をして救護所から飛び出した。その出雲の姿を見ていた病院の職員の男性が、どこに行くんだと大きめの声で言うも、その声は出雲に届いてはいなかった。
出雲は駅前の救護所から、黒塗りのトラックがあった場所に一心不乱に走り続けた。出雲が走っていると、小型のビルが全壊して外壁の破片が出雲に衝突しそうになった。しかし、出雲は近くにあった車の影に隠れることで難を逃れた。
「危なかった……まさか建物が全壊するなんて……それほどに地震での揺れや、怪物での戦闘被害が凄いのか?」
そう考えながら出雲は黒塗りのトラックに尚も走って行く。駅前の救護所から走って15分後、黒塗りのトラックがあった場所に到着した。
「さっきまでいた場所に来たけど、誰もいない……周囲には崩れたビルと瓦礫の下敷きになっている人たちしかいない……」
周囲を見渡しても美桜の姿はなく、戦闘音も聞こえてこなかった。出雲は黒塗りのトラックを見ると、運転席には事切れている運転手の男性がいた。
「逃げてすみません……でも、戻ってきました……」
そう男性の遺体に言うと、近くのビルから金属音がしたのが聞こえた。出雲は右側にあるビルに近づくと、1階部分で美桜と黒い甲冑の怪物が戦っていた。戦闘音がしなかったのはお互いに距離を取って隙を窺っていたからであり、美桜は黒い甲冑の怪物と戦いながら周囲にいた怪物とも戦って倒していたようである。美桜は黒い甲冑の怪物と戦うも、倒しきれずに集中力が途切れそうな状況に陥っていた。
「美桜! 大丈夫か!?」
「なんで私の名前を……てかなんでここにいるのよ! 逃げたんじゃないの!?」
美桜は出雲の方を目で見ながら怒鳴った。黒い甲冑の怪物はその隙に切り上げや水平切りなどの攻撃を連続で美桜に浴びせるも、美桜は頬の薄皮を斬られるだけで捌ききることができた。
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