16-2 影響。




 獣人の国の噂が出てから、ボクに向けられる視線が増えたことには気づいていた。

 だが、それをボクは無視する。

 正直、その話題には絡みたくなかった。


(だって、本当は獣人じゃないもん)


 ただのネコのボクにその話は全く関係ない。

 だが周りがそう思うわけもなく、否応なく、ボクは噂の中心に据えられた。

 そもそも、ボクみたいな獣人が欲しくて密かな獣人ブームは巻き起こっているらしい。


(でもそれってボクのせい? 違うよね??)


 そう思ったが、王宮に呼び出されてしまった。国王が会いたがっているらしい。

 嫌な予感しかしないから、話を持ってきたランドールに拒否る。


「普通に嫌だにゃん」


 可愛らしくお断りしたが、もちろん、呼び出しを拒否できる訳がない。ボクは半分強制的にランドールに連行された。心配したアルバートとルーベルトも付いてくる。どうせならロイドやカールも巻き込んでしまえと思ったが、こちらは先手を打って断わられた。国王には死んでも会いたくないらしい。

 何があったのか好奇心は大変刺激されたが、それに構っている暇はなかった。


「行くよ」


 馬車に乗せられる。


「……誘拐犯」


 ボクはランドールを睨んだ。


「はいはい」


 ランドールは軽く受け流す。編入してきてから半月足らずなのにランドールは意外と学園に順応していた。そもそもの順応力が高いのかもしれない。

 これ以上ごねても無駄だとわかったので、ボクは方針を変えた。


「どうしてボクは呼ばれたの?」


 質問する。


「それは……」


 ランドールは迷う顔をした。


「陛下に聞いて下さい」


 答えない。


(事前に心構えしたいんだから、聞いているんじゃんっ)


 心の中で毒づくが、それを口に出さないくらいの理性はボクにもあった。王子の側近が直ぐそこにいる。馬車は6人乗りで横に3人並べるようになっていた。


(面倒なことにしかならない気がする)


 ボクはふーっとため息を吐く。ただのネコに転生したのに、どうしてこんなに面倒なことになっているのかと腑に落ちない気分だった。





 王との謁見は広間みたいなところでするのだと勝手に思っていた。アニメとかのイメージでは高いところに座っている王に見下ろされながら話をする。だが実際にボクらが通されたのは執務室のような場所だった。こじんまりとはしていないが、机と椅子があってその他に応接セットみたいな感じでテーブルとソファがある。会社の社長室と応接室を合体させたような感じだ。

 机の向こうに国王が座り、立っているボクたちを見ていた。

 その視線は痛いほどボクに突き刺さる。


(ぶしつけにもほどがある)


 そう思ったが、もちろん文句は口に出せなかった。代わりに、ネコミミが拒否反応を示すようにピクピク動く。表情は誤魔化せてもミミに出る感情は隠せなかった。


(くうっ。ネコミミ、正直過ぎる)


 自分で自分に突っ込んだ。


「陛下。ノワールを連れてきました」


 ランドールが国王に声を掛ける。


(父上ではなく陛下なんだな)


 そんな細かいことが気になった。私的な話ではないからそう呼ぶのかもしれないが、親子関係が良好ではない気がする。

 そんなどうでもいいことをつらつらと考えるのは、国王と目を合わせたくないからだ。ボクはずっと素知らぬ顔で目を逸らしている。挨拶はするが、目は合わせなかった。見つめ合ったら負けな気がする。それはただの勘だが、ボクの勘はネコに転生してからはかなりの確率で当たる。野生の勘を舐めてはいけない。


「面白いネコだな」


 国王はぼそっとそう言った。

 もちろん、国王も薔薇の会があげた報告書を読んでいる。ボクが獣人でないことは知っていた。


「さてさて。可愛いネコちゃん」


 文字通りの猫撫で声に呼ばれる。


(うわぁ。嫌な予感しかしない)


 ボクはその場から走って逃げたくなった。

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