閑話: 不自然。




その子供は誰が見ても特別だった。頭に、白いネコミミなんてものが生えていなくても。


 まるで精巧に出来た人形のような整った顔立ち。白い肌に銀の髪。左右の色が違う瞳。

 その容姿だけで十分に人目を引いた。

 その上、ランドールはその子が実は獣人ではなく、ただの使い魔のネコだと知っている。ネコは自分で変化の魔法を使って人に化けていた。

 それは真実を知るランドールにさえ、にわかには信じがたい。そんなことがただのネコに出来るはずがない。彼がただのネコであることを説明して、誰が信じるだろう。

 彼が特別であることはそれだけでも明らかだ。そしてその特別な子供は新たな魔法を生み出そうと課外活動で研究しているらしい。


 ランドールは学園に編入する過程で、ノワールの成績を知った。優秀すぎて、驚きを通り越して引いてしまう。

 ただのネコがこんなに賢いのは普通ではないだろう。しかしそれに対して、何か意見を言うことはできなかった。彼がタダのネコであることは今のところ秘密だ。使い魔が人間に化けることが出来るなんて、広まった場合の影響は予想ができない。ノワールを獣人として認めているのにはそういうややこしい事情があった。




 学園ではある一部でとても有名な魔道士が教師として働いている。彼はノワールの課外授業の顧問で、検証という名の実験を行うことを許可した。

 監督者として、それに立ち合う。

 それは実技場で行われた。そこなら、例え失敗しても周りに被害は出ない。しかし、王都から遠く離れた実技場を生徒が使える回数は限られている。授業終わりについでだからとロイドは言った。一つ実験をすると生徒に告げる。授業は終わったので、帰りたいものは帰っていいと許可を出した。

 だが、帰る者はいない。みんな、新しい魔法に興味津々だ。特に、実験するのがノワールだと聞いてなおさら好奇心が刺激されたらしい。

 ノワールは一挙手一投足、注目を浴びていた。それは王子であるランドールでさえ気の毒になるほどだ。

 だが不思議と、ノワール本人はたいして気にしていない。ランドールにはそれも不思議だ。


 万が一の場合を考慮し、生徒達は一定距離以上離れさせられる。

 遠く離れたところからランドールはノワールの様子を眺めていた。彼は遠視の魔法が使える。実は離れていても、近くに居るように詳細にノワールの様子が見えていた。

 珍しく、ノワールは緊張している。ネコミミがいつもよりびくびくと動いていた。


(可愛いな)


 そう思ったが、口には出さない。ランドールは自分の魔法は秘匿していた。王族として、隠さなければいけないことはいろいろと多い。


 ノワールは二度、三度、深呼吸を繰り返した。そして、ゆっくりと目を閉じる。集中しているのがわかった。

 ぼわっとノワールの身体が白く輝き出す。

 ランドールははっと息を飲んだが、そんな反応をするのは数人だ。どうやら、見えている人間とみえていない人間がいるらしい。

 そんなことを考えていると、ノワールの上空に魔法陣が現われた。それは青白く光っている。


(綺麗だ)


 ノワールも魔法陣も両方、きらきらしていた。見惚れていたら、唐突に魔法陣が消える。


(え?)


 ランドールは驚いた。次の瞬間、小さな爆発が起こる。


(!?)


 ランドールは困惑した。

 あの魔法陣は完璧に見えた。とても失敗するとは思えない。その上、失敗したとしても爆発するのは不自然だ。


(あれはそんな魔法ではない)


 ランドールには不思議な確信がある。

 だが、そのことを口には出さなかった。ただ黙って、様子を窺う。

 爆発はノワールの近くで起こり、本人はガードして無傷だった。資料が燃えたくらいで、直ぐに消化したので他に被害はない。

 そしてそのことが、ランドールの疑念を深める。


(何かある)


 そう確信した。

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